私のボディーガード君
 カフェテリアに移動して学生たちの話をいつものように聞く。「光源氏に聞く恋愛相談」のコラムを連載するようになってから、空き時間となっている月曜日の二限は恋愛相談に応える事が多くなった。

 本当は講義の準備とか、論文のチェックとか、本の原稿を書く時間にあてたい所だけど、学生の悩みに答えるのも大学教員の仕事だと割り切るようになった。

 そして、みんな話すとスッキリするようで、ただ頷くだけで満足してくれる事も結構ある。それに彼女たちは言葉にする事でどうするべきか自分で答えを見つけている。でも、本人は気づいていないよう。だから、それを指摘して気づかせてあげる。

 今は彼と別れた方がいいのかという質問を受け付けた。
 話を聞くと本心は別れたいようだけど、自分ではわかっていないみたい。

「あなたは別れた方がいいと思うわ。自分を大切にしなさい。『源氏物語』に『浮舟』という女性が出てくるんだけど、彼女は二人の貴公子に言い寄られて、悩んだ挙句、宇治川に身を投げてしまうの。一命はとりとめるんだけど、もう恋愛沙汰に巻き込まれるのは嫌で出家してしまうの。そこから『浮舟』は自立した女性の心の強さを見せるの。大丈夫、相手の顔色ばかり見ていないで、自分の心に正直に生きなさい」

 我ながらいい事言ったわ。あとでメモしておこう。

「先生の言う通り別れた方がいいかもしれません。私、ずっと彼の顔色ばかり見てて、疲れちゃったんです。さすが佐伯先生。やっぱり先生は恋愛のカリスマです」

 女子学生が憧れるような視線を向けてくる。
 また一つ学生の悩みを解決できて満足。
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