隠したがりの傷心にゃんこは冷徹上司に拾われて
prologue

次の花嫁は?

「それでは、誓いのキスを――」

 白いタキシードに身を包んだ花婿が、花嫁のベールを上げる。
 永遠の愛を誓い合った二人は、その誓いを閉じ込めるためにキスをするのだと、昔何かで読んだ。
 今、目の前で、その儀式が行われている。
 ロマンチックな光景に、チャペルの中にうっとりとしたため息が響く。

 純白のドレスに身を包み、世界で一番幸せだと顔をほころばせ、はにかむ花嫁。
 彼女は私の高校時代の友人、真宙(まひろ)だ。


 今は六月。梅雨のしとしと雨が降り続いていたが、今日は晴天だ。
 じとっとした空気にも負けないくらい、真宙は幸せいっぱいの笑顔を浮かべる。
 チャペルの外で、フラワーシャワーを降らせながら、真宙の門出を祝う。

「うう、真宙、おめでと……」

 私の隣で、ハンカチで目元を押さえながら祝福の言葉を送るのは、同じく高校時代の友人の夕空(ゆあ)
 私たちは、高校時代からの仲良し三人組だ。

「あ……」

 天気雨が降ってきた。まるでシャワーのように、細かい粒が降り注ぐ。

「あ、虹っ!」

 どこかで子供がそう言って、真宙は持ってるな、なんて思っていると、隣から(はな)をすする音がする。
 見れば、夕空が感激して泣いていた。

「結婚式に雨が降るのはね、ヨーロッパでは幸せな花嫁の涙って言われてて、縁起がいいんだって。空まで真宙たちを祝福してるんだよ~」

 夕空が涙声でそう言って、私はへえ、とうなずいた。
 心の底から、幸せそうに笑う真宙。

 感動して、泣く人、人、人。

 けれど、私は泣かない。

 弱い人間は、周りの人を不幸にする。
 私は強くありたい。
 泣かないし、弱音もはかない。

 夕空のように、嬉しい時に泣けるのは羨ましい。

 嬉し涙とそうじゃない涙の使い分けを、私はまだできない。
 泣くと、弱い自分に支配されてしまったような気分になる。

 強い人間でありたい。
 だから、私は泣かない。

 *

 やがて式は進み、次はブーケトスが行われるらしい。
 独身女性が、階段の前に集まる。

「ほら、瑠依(るい)も行きなよ」

 夕空に背中を押される。
 けれど、私には恋人もいないし、結婚の予定もない。

「いや、私はいいって……」

 小声で返すと、会場がざわつく。
 後ろから肩を叩かれ、振り返ると、そこに真宙が立っていた。

「はい、これ」

 ブーケを突き出され、反射的に受け取ってしまう。

「…………え!?」

 数秒遅れて自分の置かれている状況を把握し、思わずそんな声が出た。

「次は瑠依の番。幸せにならなかったら、私たちは許さない」

 幸せな笑顔で夕空と目くばせした真宙は、茶目っ気たっぷりに片目をつぶる。

「うん、頑張る」

 私は愛想笑いを返した。

< 1 / 80 >

この作品をシェア

pagetop