隠したがりの傷心にゃんこは冷徹上司に拾われて

小動物カフェでの受難

 入り口で受付を済ませ、お店の中へ。店内はすべて座敷になっている。案内された席に座ると、さっそく猫たちが寄ってくる。

「か、可愛い……」

 思わず手を伸ばし、自分のひざに猫を乗せる。
 その背を撫でながら、受付で猫ちゃんの餌を買ってあげられるって言ってたなあ、なんて考える。

「部長、可愛いですね! ほら、こんなに……」

 見上げて、思わず固まった。
 部長が優しく微笑んで、こちらをじっと見ていたのだ。

「部長……? 私じゃなくて、猫ちゃんたち見てくださいよ」

 照れ隠しにそう言って、部長の周りを見た。
 きっと、可愛い動物たちが、部長の周りにも――

 あ、あれ?

 ……いない。

 部長の半径一メートルには、猫どころかほかの動物も寄ってこない。

「…………」

 ――部長に寄り付かないの、公園の白猫ちゃんだけじゃないの!?

 冷汗が背中を伝う。
 部長はあぐらをかいたまま、静かにこちらを眺めている。
 優しそうな瞳は、どうやら私のことをうらやましがっているだけらしい。

「あー、……部長も、撫でます? こういうところの猫ちゃんって、きっと人に慣れてるはずだから……」

 膝の上に載ってきた猫ちゃんを部長の方へ掲げて見せた。

 猫が視界に入ったのか、部長は優しく目を細める。
 しかし次の瞬間、テーブルを隔てているにも関わらず、猫ちゃんが「シャーッ」と部長を威嚇する。
 部長がフッと苦笑いをこぼしたところで、テーブルにコーヒーが運ばれてきた。

 運ばれてきたコーヒーに、黙々と口をつける部長。
 気持ちよさそうに丸くなる猫ちゃんを膝に乗せ、その背を撫でる私。
 まるで、動物に興味のない彼氏をデートで無理やり連れてきた彼女、のような図になってしまった。

 ああ、やってしまった。

 けれど、諦めるのはまだ早い。
 他の動物ならと思い、店員さんに声をかける。
 店員さんはどうぞどうぞと、皿状にした部長の手の平にハムスターをそっと乗せる。
 けれども、ハムスターはその手の中からひょいっと逃げてしまった。

 モモンガ、ウサギ、ハリネズミ、チンチラ……。

 カフェ内のすべての動物が、部長を避けている。

 ――嘘でしょ……。こんなことって、ある?

 ペットとはいかずとも、人慣れしている小動物たちならと部長も撫でられると思っていたのに。
 何より、部長に申し訳ない。

「そろそろ、出ましょうか?」

 そう言うと、部長は「いいのか?」とこちらに目配せをする。コクリと頷けば、部長が席を立つ。
 申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、私は部長の後を追った。

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