隠したがりの傷心にゃんこは冷徹上司に拾われて
「もちろん、あります」

 私は負けじとそう返した。

 部長は「ほう?」とあごに手を置く。

「部長と一緒に行きたいカフェがあるのですが、これからどうですか? そこで、代替案をプレゼンさせていただきます」

 淡々と、部長の瞳に訴えかける。

 部長は口角をニヤリとあげて「面白いな」と呟く。

「わかった。着替えるから少々待っていてくれ」

 部長はなぜか楽しそうにそう言って、寝室の扉をガチャリと閉めた。

 *

 着替えた部長と簡単に昼食を済ませ、小さなカフェにやってきた。
 部長はVネックの白い無地のTシャツに、ベージュのチノパンツというカジュアルな姿。
 一方で、私は昨日と同じブラウスにカーディガンを羽織り、フレアスカートを履いている。

 ――オフィスカジュアルなこの格好、少し浮かないかな。

 そんなことを思っていると、部長が窓の外から店内を覗く。

「なるほど、これが猫宮の代替案か」

 部長は顎に手を当て、納得したように二、三度頷いた。
 私が部長を連れてやってきたのは小動物カフェだ。ここなら、人間慣れした様々な小動物と触れ合うことができる。

「部長はこういうところに来たことありますか?」

「いや、初めてだ。男一人だと、こういうところには入りにくいからな」

 部長はそう言って振り向く。
 その表情は、いつもよりやわらかい気がした。

「では早速、入りましょうか」

 内心『しめた』と思いながら、私はまだ窓から中の様子をうかがっている部長の手に触れる。
 その大きさに自らドキっとして、思わず離してしまった。

「どうした?」

 部長はこちらを振り返ると、何事もなかったかのように自然に私の手を取る。

「な、なんでもないです……」

 胸の高鳴りをなんとか抑えて、部長の手を引き小動物カフェの中へと入った。

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