隠したがりの傷心にゃんこは冷徹上司に拾われて
 結局、部長は私の服に布団、ハンガーラックなど簡易的に部長の部屋に住むことができそうなものを買いそろえてくれた。
 つまり、私はもう部長の中では部長と共に住むということが決まっているということだ。それも、部長のペットとして、だ。

 帰宅後、部長は広いリビングダイニングに、壁のように備え付けられていた間仕切りをするすると出した。
 見れば、天井にはレールのようなものがついている。どうやら、リビングを二分できるらしい。
 それをかちゃりと最後まで止めれば、リビングダイニングの三分の二ほどの広さの、もうひとつの部屋が出来上がる。

「今日からここが、猫宮の部屋……“小屋”、だ」

 部長は今さっき仕切ったばかりの壁を見上げ、そう言う。
 それから、私の方を見向きもせずに買ってきた寝具やらハンガーラックやらを、その部屋の中に運び込む。

「部、部長! 私、やっぱり――」

 両手に紙袋を抱えた部長を呼び止める。
 部長はちらりとこちらを見据えてから、リビングを横切る。

「何だ。要件は手短に言え」

「ペットなんて、無理です!」

 また私に背を向けた部長に向かって言った。
 部長は隣の部屋に荷物を置くと、そのままこちらを振り返る。

「ペットになると言ったのは、猫宮の方だろう?」

「そのようです……が、あれは酔っていてですね……」

 そう言ったらしいが、覚えていないので語尾があやふやになる。
 あの夜、飲みすぎたのが悔やまれる。

「自身の発言には責任を持つように。それに、俺のペットになるのは猫宮に悪い話じゃない」

 部長の言葉に、垂れていた首を上げた。

「猫宮の家はここからもう少し西だろう? 最寄り駅も、ここの方が会社に近い」

 部長はプレゼンをするように、淡々と話しだす。

「それに、ここは駅近物件だ。駅まで歩いて4分。猫宮のところは?」

「駅からは10分です……」

 思わず答えると、部長はさらにたたみかけるように続けた。

「さらに、この物件に住めば猫宮はペットだ。家賃、食費、光熱費は無論タダ。朝と夜は俺が作るし、掃除洗濯も俺がやる。どうだ?」

「でも、そんなに至れり尽くせりじゃ申し訳ないです」

 聞かれても、それしか返せない。
 そもそも、飼い主とペットという奇妙な関係での同居なのだ。

「俺がそうしたいから、するだけだ」

 なのに、部長は平然とそう言う。
 それで、私の中の何かが折れた。

「そこまで部長がおっしゃるなら――」

 言いかけたところで、詰まってしまった。
 頭の上に、部長の大きな手が置かれたのだ。ぽんぽんと優しく撫でられ、朝のように心臓が騒ぎ出す。

「これからよろしくな」

 見上げた部長の瞳は、優しく細められている気がした。

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