隠したがりの傷心にゃんこは冷徹上司に拾われて
 その後、部長の手作りの夕飯をいただき、部長が沸かしてくれたお風呂で温まる。
 就寝準備を済ませリビングに向かうと、部長はソファに座ってくつろいでいた。
 その膝には長い毛のクッションが乗せられていて、それをぼうっと撫でている。

 ――部長、やっぱり……。

 思わずクスリと笑うと、部長がこちらを向く。

「なんだ、猫宮早かったな」

 部長はそう言って立ち上がる。
 そしてこちらに向かってくると、「おやすみ」と私の頭を撫でてリビングを出ていった。

 *

 私も部長の作ってくれた“小屋”に入り、さっそく部長が敷いてくれた布団に潜りこむ。
 それからぎゅっと目を閉じて、今日のことを思い出す。

 部長のペットになってしまった。
 確かに、メリットはたくさんあるかもしれない。
 事実、部長のご飯は美味しいし、部屋も私の部屋より会社に近いし、数倍きれいだ。

 何より、憧れの強い上司と共に住めるというのは、奇跡的なことかもしれない。
 部長の強さを、間近で知れるいい機会かもしれない。

 けれど、甘えちゃいけない。
 たとえ甘やかされても、流されちゃいけない。

 強く、生きていくために。
 私は、子供のころにそう誓ったのだ。

 *

 小学四年生の時に、母が死んだ。
 自殺だった。

 シングルマザーだった母が、死んだ。
 自ら、命を絶ったのだ。

 まだ、小学生だった(わたし)を残して。

 母のように弱い人間は、死んでもなお周りに迷惑をかける。
 母の死後、それを身をもって体感してきた私は、一人でも生きていける強さをもった人間でありたいと思って生きてきた。

 間違っても、自ら命を絶つような、弱い人間にはなりたくない。

 *

 目を閉じたまま、ぎゅっとこぶしを握った。

 こんなことを考えているうちは、きっと私はまだ強くない。
 強くなりたい。強くならなきゃ。

 目頭が熱くなって、慌てて首元を包むように両方の手のひらを当てた。こうすると、涙が引っ込むのだ。

 一度目を開く。鼻から思い切り息を吸い込み、口から吐き出す。
 心を落ち着け、自分自身に念じる。

 泣くな。強くあれ。
 強い人間であれ。

< 17 / 80 >

この作品をシェア

pagetop