隠したがりの傷心にゃんこは冷徹上司に拾われて
第二章

自認したら逃げられなくなりました

 翌日曜日は朝からしとしとと雨が降っていた。
 起きた時にはすでに部長がご飯の支度や掃除を終えていて、さすが仕事の早い部長だと感心する。申し訳なくて皿洗いを申し出れば、ペットはそんなことしないだろうと制されてしまった。

 その後、部長と共に動画サブスクで癒しの動物動画を鑑賞したりして、のんびりと過ごした。
 午後、自宅に帰ってメイク道具や服など必要なものを持ってきたいと申し出ると、部長は車を出してくれた。しかしそれもあっという間に終わってしまう。
 またソファで、可愛い動物の動画を鑑賞していると、思わずうとうとしてしまう。
 すると、部長がそんな私に気づいて頭を優しく撫でてくれる。

 気持ちいい。
 けれど、これはペットの背を撫でているようなものなのだと、思い違いをしないように気を付ける。
 猫だって、背を撫でられれば気持ちいいはずだ。

 *

 月曜日。
 部長と共に家を出る。部長の優しい表情を知ってしまった今、スーツ姿の部長が厳しい顔つきでいても、以前より親近感を感じる。

 しかし、仕事となれば、私たちはただの上司と部下だ。
 いつもと同じ月曜日なのに、憧れの上司が隣にいるというだけで、身が引き締まる。

 出社したら部長はすぐに資料に目を移す。部下たちの動きを把握し必要なところに手を貸していく、それが部長のスタイルだ。
 言い方がキツい時もあるが、的確なので誰も何も言えない。

 東京本部の営業部は精鋭の集まりだから、余計に仕事が倍速で動いていくと聞いたことがある。
 私も始業してしまえば、頭が仕事に切り替わる。
 無駄なことをしている暇はない。皆に、追いつかなくてはならない。

 そんな風に仕事をこなし、気づけばオフィスの人が減っていた。窓の外はすっかり暗くなっている。
 ため息がこぼれた。今日も終電コースか。

 自分の仕事だけなら終わるが、熊鞍さんに渡された追加の仕事がある。
 手伝ってと言えばいいのだろうが、それは無責任なようで言えない。
 泣き言や愚痴をこぼしている暇があるのなら、仕事を進めた方がいい。

 緩めてしまった気を引き締めて、再び画面に集中する。
 すると、不意に背後から視線を感じた。

「……部長?」

 振り返った先にいたのは、コーヒーを手にした部長だった。

「ほら、猫宮。今日も終電か?」

 紙コップを差し出され、戸惑った。
 今まで部長にコーヒーなんて淹れてもらったことはない。もちろん、部長が会社でコーヒーを淹れているところを見たこともない。
 思わずキョロキョロしてしまい、部長がため息をこぼす。

「もう皆、帰った。残ってるのは俺と猫宮だけだ」

 会社でこんなふうに話しかけてもらったのは初めてだ。
 差し出されたコーヒーを「ありがとうございます」と受け取ると、部長は徐ろに隣の席の椅子を引き、足を組んでそこに座った。


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