隠したがりの傷心にゃんこは冷徹上司に拾われて
 会議室に入ると、そこには相変わらずオーラたっぷりな無表情の部長と、熊鞍(くまくら)さんがいた。
 彼女は私が入室すると、こちらをちらりと見て笑みを浮かべる。軽く会釈し、席についた。

「時間をもらってすまない。だが重要なことだ。先日から、猫宮のミスが相次いでいる件だが――」

 ああ、やっぱり。
 それで、私の教育係の熊鞍さんまで呼び出されたのだろう。彼女の時間まで使ってしまって申し訳ない。

「申し訳ありません。私、少々気が緩んでおりました。今後はミスのないように――」

「猫宮」

 静かに名前を呼ばれ、言葉を飲んだ。部長の視線が、何も言うなと私に投げられる。
 小さく「すみません」と言うと、部長は何かの資料を取り出した。

「今朝の猫宮のミスの件について、調べた。猫宮、昨夜の資料と今朝の資料、書き換えられていたことに気づいていたか?」

「書き換え、ですか――?」

 キョトンとしていると、部長は静かな声で続けた。

「おかしいと思わなかったのか?」

「確かに、どうしてこんなミスを……とは思いましたが、でもそれは私がうっかり――」

「どうして報告しない?」

「え?」

 顔を上げると、部長は相変わらず冷徹サイボーグのまま、こちらに視線を向ける。

「おかしいと思ったら、即報告すること。猫宮には社会人の基本から教え直さなければならないらしいな」

「すみません」

 忘れていたわけじゃない。けれど、自分のミスだ。
 自分でどうにかなることは、自分で何とかしたいと思っただけだ。
 けれど、それがいけなかった。

「部長、申し訳ありません。そんな基本的なことまで、教えなければならなかったんですね。まあ、現場を経験していない彼女ですもの、仕方ないですよね」

 熊鞍さんはそう言うものの、口元がかすかに釣り上がっている。
 嫌味だ。時折、彼女から向けられる「なんでコイツがこの部署に」という視線に、もうかなり前から気づいていた。
 わかっている。私は、この部署にいるべきではない。
 春からの異動だって、きっと何かの間違いなのだ。

「猫宮からの報告がなく、手を付けるのが少々遅くなってしまった」

 部長は熊鞍さんが言ったことを肯定するでも否定するでもなく、続けた。

「結論から言うと、ミスは猫宮のものではない。昨夜、データ課のSEに調べさせた。社内の人間が猫宮のパソコンに侵入してデータを改ざんしていた」

「誰が、そんなこと……」

 熊鞍さんは隣で、驚き目を見開く。
 誰だっていい。私が営業部に来たことを良く思っていない社員は、営業部にも元いた事務にもたくさんいるだろう。
 学歴も、経験もない私の、謎の栄転なのだから。

 そんなことより、悔しい。
 そんな些細なことを報告せずにいたせいで、こうして皆の時間を割いてもらっている。申し訳ない。

 なのに。

「熊鞍、お前だろう」

 部長がそう言って、会議室の空気がピリっと張り詰めた。

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