隠したがりの傷心にゃんこは冷徹上司に拾われて
 オフィスを出て、地上へ向かうエレベーターの中。
 いつもと同じ、部長と二人きりの空間で、こんなにも惨めな気持ちになったのは初めてだ。

 部長はいつもと変わらない顔。冷徹な部長のままだ。
 私だけが弱い。茶色くなってしまった白猫が、ゴミ箱の中にいる。それを思い出すだけで、目頭が熱くなる。
 部長とのつながりの証なのに、部長はそれをなんとも思っていない様子なのが悲しい。
 私の想いは、いつだって部長には一方通行だ。

 ――好きだ。

 でも、間違えちゃいけないと、部長の態度が教えてくれる。
 私と部長は、上司と部下であり、飼い主とペットでしかない。
 生まれてしまった淡い感情に気持ちを左右されるけれど、きっとこれも一時だけのものだ。
 私は、強く、一人で生きていきたいのだから。

 エレベーターを出て、部長と歩いていると、すぐにカフェの前についた。
 翔也お兄ちゃんと約束したのは、このカフェだ。

「瑠依ちゃん!」

 翔也お兄ちゃんはカフェの一番通路側に座っていた。
 私に気づいて、声を上げ手を上げる。
 それから、隣の部長に気づいてはっと目を見開いた後、軽く会釈した。

「猫宮、結城(ゆうき)さんと知り合いだったのか」

「はい、知り合いと言うか、幼馴染で」

「そうか」

 部長はそう言うと、「じゃあ」と手を挙げて去っていく。
 その間に、カップを片した翔也お兄ちゃんがこちらに急いでやってくる。

「瑠依ちゃん、皐月(さつき)さんと仲いいんだ? なんか、意外」

 そう言った翔也お兄ちゃんは「行こうか」と私を促す。
 けれど、私は去っていく部長の後ろ姿を、なぜか目で追ってしまう。

「どうした?」

 肩を叩かれ、はっと我に返る。

「ううん、何でもない。どこで飲む?」

 私は気持ちを切り替えようと、翔也お兄ちゃんに笑みを向けた。

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