隠したがりの傷心にゃんこは冷徹上司に拾われて
 部長と公園にやってきた。あの日、部長のペットになるきっかけになった公園だ。
 前と同じベンチに部長が座る。私も、その隣に腰かける。

 蒸し暑いが、風は幾分涼しい。頬が火照っているのは、酒のせいだけじゃない。むしろ、今日はそんなに飲んでいない。

「シロちゃん、今日は来ませんね」

 あの日が懐かしくなったらしい。そんなことが口から飛び出た。
 シロと戯れようと、猫じゃらしを手にした部長の姿を思い出す。あの夜が、私を変えてしまった。
 あの夜から、私はますます弱くなった。

「ああ。だが、今は俺の隣には猫宮がいるからな」

 部長はいつもの声色で、淡々とそう言う。
 甘い言葉に聞こえなくもないが、ただ事実を伝えているようにも聞こえる。

 笑顔で、ささやくように、甘い口調で言ってくれたら。

 そんな部長を想像して、私と部長はそういうのではないと思い至り、虚しくなる。
 「そうですね」と返事をしたが、なぜかとても淡白な言い方になってしまった。
 そうなってしまったことで、部長も私と同じだったらいいと、また頭が勝手に良いように解釈をしようとする。
 そんなはずはないと、抱いた思いに自分でブレーキをかける。突っ込んだら、そのまま暴走してしまいそうだ。

「これ」

 不意に部長が鞄から取り出したのは、ビニールに入った茶色い物体だった。

「え……?」

 信じられなかった。
 先ほど、職場で捨てたはずだ。
 白い猫だったとは思えないほど茶色くなっていたが、それは明らかに私がゴミ箱に放ったあのぬいぐるみキーホルダーだった。

「時間がなくて、あまりきれいに落とせなかったが。匂いは取れたはずだ」

 呆然としていると、部長は、また新たな袋を鞄から取り出した。

「家に帰ったら乾かそうと思う。が、あまりきれいにならなかったから、だから――」

 部長の手の中の、その袋に見覚えがある。袋に印字されているのは、あのカフェのものだ。

「猫宮に、これを」

 まだ呆然としたままの私に、部長は無理やりに袋を握らせる。袋の外からでもわかる、ふわふわとした感触。
 はっとして、袋から取り出した。

「シロ……」

 入っていたのは、真っ白な猫のぬいぐるみキーホルダー。
 手の中に大事に包むと、目頭が熱くなってくる。なんて名付けていいのかわからない感情に、涙が溢れそうになる。

「部長、これ……」

「カフェの中には入ってない。動物たちにも、俺がいるとストレスだろうからな」

 自嘲するように少し笑いながら言う部長だが、おどけているのだと分かる。
 部長は、あの小動物カフェに一人で行って、買ってきてくれたのだ。

「部長、……でも、なんでわざわざ……?」

「俺のペットの、証だ。勝手に捨てるな」

 部長はぶっきらぼうにそう言って、どこかそっぽを向いている。
 私はあふれた涙を隠したかったから、その部長の態度がありがたかった。

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