隠したがりの傷心にゃんこは冷徹上司に拾われて
 淡い期待は打ち砕かれたが、それよりも翔也お兄ちゃんの彼女さんへの申し訳なさでいたたまれなくなりながら居酒屋を出た。

 どうして確認しなかったのだろう。
 男女が二人きりで飲むのなら、先に確認しておくべきだった。
 そもそも、こんな過去のことまで謝りたいと申し出てくれる優しさにあふれた、大手広告代理店の営業マンだ。彼女がいる、という想像くらい容易くできたはずだ。なのに、それを怠った自分が情けない。

 ごめんなさい、傷つけていたら。
 この空の下のどこかにいる、翔也お兄ちゃんの彼女さんに胸の内で謝罪しているときだった。

「あ……!」

 不意に、翔也お兄ちゃんが声を上げた。
 見上げた先にいたのは、大柄な男性。夏の蒸し暑い夜空の下でも、隙のないスーツの後姿。

「部長……?」

 私の声に、彼が振り返る。やっぱり、部長だった。

「皐月さん、どうも」

 翔也お兄ちゃんが、急に営業スマイルに変わる。部長は「ああ」と軽く手を上げる。
 ビジネスライクな挨拶が、今の私たちにはとてもちぐはぐで、なぜか張り詰めたような空気になる。

「瑠依ちゃん、俺はこれで」

 翔也お兄ちゃんは、何か部長に言って頭を下げ、そのまま去っていく。

「猫宮、この後の予定は?」

 突然部長がそう言って、「いえ、特には」と慌てて返す。

「そうか、よかった」

 部長は不意に私の手を取った。キョトンとしていると、部長の目尻が幾分下がる。
 先ほど恋心を自覚してしまったからか、その表情と手から伝わる部長の体温に胸がおかしいくらいに高鳴る。

「飲みすぎてはいないか? ちょっと公園で、休憩でもしていくか」

 部長がそう言って、私の手を引き歩き始める。

 ――どうして? なんで、部長は私を待っていたの?

 そう思いかけて、それが自分に都合のいい解釈だと気づく。
 そんな勘違いはしてはいけないと、恋心は忘れようと頭を振り、部長に手を引かれて歩いた。 

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