隠したがりの傷心にゃんこは冷徹上司に拾われて
第四章

立つ鳥は跡を濁してはならぬ

 それから、またしばらくが経った。
 梅雨はすっかり明けて、新緑が空に映えるような、暑い夏がやってきた。

 私はいつも通りに仕事をこなしながら、今日もデスクで伸びをする。
 ちらりと視界に端に白猫のぬいぐるみキーホルダーが入って、思わず部長の方をちらりと見てしまう。
 彼は相変わらずの冷徹な表情のまま、淡々と仕事をしている。

 ため息が零れた。
 あれから、部長によりかからないように、自分は部長のペットなのだと言い聞かせて、毎日を過ごした。
 けれども、ほんの些細なことで胸が跳ね、その度に自己嫌悪に陥った。

 だから、部長といる時間をわざと減らした。
 朝はぎりぎりまで部長の用意してくれた“小屋”で過ごし、帰宅後もほとんどそこにこもった。必要最低限の会話で済むように。

 部長は会議があるらしく、オフィスを出ていった。
 すると、オフィス内を張り詰めていた空気が少しだけ緩む。

 私は、このままでは作業効率が落ちてしまうと、背筋を正して気合を入れた。
 けれど、そんな私の気合は簡単にへし折られてしまった。
 熊鞍さんと、靖佳さんの会話が耳に入ってきたのだ。

「そういえば、皐月(さつき)部長、お見合いしたらしいよ」

 思わず会話の方を振り返り、彼女たちがこちらに気づく前に慌てて前に向き戻った。

 ――お見合い……っ!?

 動揺を悟られぬよういつも通りを装いながらも、二人の会話に耳を傾けてしまう。

「ああ、知ってます、噂になってますよね」

 靖佳さんがそう言って、思わず周りをちらちらと見た。皆、知っているのだろうか。
 そんなことを考えてから、こんなことしている場合ではないのにと、気持ちを切り替えようとした。

 けれど、部長のことが気になってしまう自分がいる。
 気になってしまっては仕事にならないからと、無理やり自分に言い訳するように、二人の会話を盗み聞いた。

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