隠したがりの傷心にゃんこは冷徹上司に拾われて
「お相手は、確か……、社長の娘さん」

「そうそう、20代半ごろって聞いた。どんなお嬢様なのかしらね」

「部長の雰囲気が最近丸くなったのも、そのせいだったりしますかね?」

 熊鞍さんが「そうかもしれないわね」と笑って、彼女と同期の営業の社員さんが「それ、俺も思った」と軽く同調する。

 私は内心、そうか、と納得していた。
 部長といる時間をわざと減らして、意図的にすれ違う生活をしていた。
 何か用事があれば話しかけるし、話しかけられるが、最近の私と部長は自宅でも会話というより業務連絡しかしなくなっていた。
 以前私に見せてくれていたような表情は、あまり見せなくなった。
 固い冷徹な表情のままの部長が、家でもそのままいるようだった。

 私の残業は減ったが、部長はここ最近仕事量が増えている。結果、一緒に帰宅することも減った。
 帰宅時間が違うからと部屋の鍵を拝借しているけれど、部長のいない部長の部屋にいるのはなんとなく申し訳なくて、いつも映画を見たりカフェで過ごしたりして遅くに帰宅したりしていた。

 その間に、部長が未来のお嫁さんと会っていたならば。
 きっと、ほころんだ表情を向ける相手が私じゃなくなったのだろう。
 私が部長を避けるようにしていたように、部長もまた、私を避けていたのかもしれない。

 私は所詮、部長のペットでしかない。
 飼い主が外でどんな風に生活しているかなんて、ペットは知らされる余地もないのだ。

 部長が、私以外の女の人と会って、楽しく笑いあっている。そういう時間があるかもしれないことを、私は想像もしていなかった。
 だから、胸の奥がざわざわして、チクリと痛む。
 けれど、それで余計に、私と部長の関係性が『恋人』とはほど遠いことを思い知らされる。

 部長は憧れの人だ。
 恋になんて、なりやしないのだ。

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