朝を綴る詞

本編

何度も聞いた目覚まし時計の音。

布団の中で体を丸めて、
片腕だけをスッと伸ばし定位置にある
時計のボタンを押す。

鳴り止んだ部屋に再び静寂が訪れた。

起きなきゃいけない

ーーーーー分かってる。

仕事に行く準備をしなきゃ

ーーーーー今から起き上がる。

ほら、ダラダラしちゃダメだ

ーーーーーうるさいなぁ。

脳内で1人、会話をする。

朝は、いつもこうだ。

1日が始まってしまうことに嫌気が差す。
行きたくもない仕事に行くために
満員電車に揺られて、
職場についたらすぐに上司や先輩、
同期たちに挨拶をして、
周りに気を遣って、笑顔を振り撒いて、
失敗をしたらこっぴどく叱られて、
落ち込む暇もなく気持ちを切り替えて……
もううんざりだ。

重たい体を起こすと、
視界に映る机の上の紙の束。

本当はこんな人生を送る予定じゃなかった。

自分がしたいことは、
こんなことじゃなかった。

だけど、世の中そんなに
上手く行く訳なくて、
夢なんてそんなものはいつしか
自ら手を離してどこかへ飛んで行った。

きっと遠くの方へ。

ベッドから降り、
机の上の紙の束を手に取る。



「無駄だよ、きっと」



ポツリと呟き、紙を握る。
グシャッと音を立てて、
皺一つない綺麗だった紙は
折れ曲がって皺だらけになってしまった。

それを床へ叩きつけ、リビングへ向かった。


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