弊社の副社長に口説かれています
11.新奈の奸計
だが三日経っても陽葵からは返信がなかった、既読にすらならない、友達追加されていないからだ。史絵瑠からもメッセージを送ってもらったが同様だった、史絵瑠はブロックされたのだろうと考えた。あれだけのことがあったのだ、尚登ならばその選択をするだろう。

面白くないのは新奈だ。歩み寄ってやろうというのに──今までのことは勝手に忘れ、母として接しようとしていた。

(そうなれば)

堀を埋め、つながりを持つ方法を模索する。閃いたのは、末吉商事社長との直接のコンタクトだ。
先日撮影した尚登の名刺の写真から、書かれた電話番号に発信する。大代表の電話である、藤田陽葵の母だと伝え社長と話したいと言えばあっさりと繋がった、やはり末吉商事社長の親族──息子なのだと確証を得る。

『高見沢です、陽葵さんのお母様ですか?』

呼びかけに笑い出しそうになる、間違いなく陽葵は大企業の息子と交際しているのだと確信した。

「はいーっ、娘がお世話になっておりますぅ」
『ああ、よかった。こうしてお母様からお電話をいただけるとは、大変光栄です。陽葵さんからご報告があったんですね』

なんてことはない言葉だが、なにかがひっかかった。報告があったとは──。

「ええ、今後ともよろしくお願いいたしますとお伝えしたくて、急ぎお電話をさせていただきました」

社長に副社長だ、もしかしたらそばにいるかもしれない──メッセージを無視している陽葵にこの連絡を知られたくはなかった。

『こちらこそよろしくお願いいたします。一度両家で顔合わせなどさせていただき今度の話もしたいのですが、そのあたりの日程や場所は尚登たちに任せようと思います、下手に口出しするとすぐにへそを曲げますので』

顔合わせとは──新奈の顔が緩む。ただの交際ならば見守るだけだろう、すでに結婚ということまで話が進んでいるのだ。

「まったくですわね。特に我が家ですと、そういった話は主人と交わしたほうがよいように思いますし」

仁志のうんうんと頷く気配に、自分が継母であることは知られているのだと判った。陽葵はどこまで家族の話をしているのか──。

『あ、尚登はお母様にご挨拶はお済でしょうか。まだでしたら、声をかけてまいりますが』

言われて焦った、今はそばにいないことが判りほっとしたが、なぜ自分が尚登に行き着いたかバレては困ると瞬時に思ったのは、京助の財布から盗み見た名刺から連絡をしているからか。

「いえ、直接お会いした時の楽しみにしておきますわ」
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