私と彼の結婚四箇条

早まったかもしれない

「疲れた。」

 花乃は疲れ切った表情で自販機の前に立ち尽くしていた。いくつになっても女性は恋愛に興味津々のようだ。おばさまから若い子まで熱量が凄まじかった。囲まれるとその熱量に圧されて倒れるかと思った。
 喋りすぎてカラカラに乾いた喉を潤すため、ホットコーヒー(無糖)のボタンを押そうとして、一瞬迷い、カフェラテに変更した。
なんだか糖分が欲しい。そんな気分だった。

「花乃先輩」

「窪内さん。」

自販機からカフェラテを取り出して、窪内と向き合う。窪内は苦笑しながら話しかけてきた。

「お疲れ様でした。すごい質問責めでしたね。」

「そうだねえ……。」

思い返してみても、もう二度と経験したくないほどだった。
女性って怖い。

「……。私、花乃先輩は結婚しないんだと思ってました。」

窪内はぽつりとそう漏らした。
その窪内の一言に、花乃は目をパチクリさせる。仕事でやつれたのとは違う、暗い雰囲気の窪内。
きっと心から思ったのだろう。
はっと我に帰った窪内は慌てて両手と首を振って否定した。

「すみません。失礼ですよね。でも、悪い意味じゃなくて、結婚とかにそういうしがらみ?みたいなものに囚われないっていうか。」

ーーああ。なんとなく、わかるかも。

窪内は言いたいことを上手く伝えられずうんうん唸っているが、花乃は窪内の気持ちがよく分かった。

「ほら。結婚は当然するものって考え、まだあるじゃないですか。女性の幸せは結婚すること、みたいな。そういうのさえも花乃先輩は飛び越えて自分を貫くのかな、て。」

女性進出が進んだと言われる現代でも、まだ見え隠れする『女性』像。働く女性ならば少なからず感じるそのイメージの型に、違和感を感じることはある。でもその型を破って生活するのは、酷く生き辛いものを感じる。

「窪内さん……。」

花乃は結局そのイメージの型から外れて生きることが出来なかった。
仮初の結婚でイメージの型にはまって生きる事を選んだのだ。

「本当すみません。失礼なこと言って。でも花乃先輩が選んだ人、すごく興味あります。どんな人と一緒になろうって決めたのかな、て。」

暗くなった雰囲気を一蹴しようと、窪内は明るく話題を変えていく。
そんな窪内に花乃は「そのうちね。」と返すしかなかった。

ーーごめんね、窪内さん。私はきっと貴方が思うほどできた人でも、自分を貫ける人でもないの。

ほんの少しの罪悪感を感じながら、心の中で謝るしか出来なかった。

ピロリン

そんな時、ちょうどよくスマホからメッセージ音が聞こえてきた。
ポケットからスマホを取り出し、内容を確認すると、花乃はカッと目を見開いた。

濱咲那津
『ごめん。今日、同僚が家に行くって。』

そんな言葉と一緒に汗を飛ばしながら謝るイラストのスタンプ付きのメッセージが届いていたのだ。

ーー今日?何でまた……。

その時、花乃ははっとした。

ーーアイツ、まさか説明するのが面倒になった?

弁護士の癖に言葉で説明するのを面倒くさがる癖のある那津は、昔からよく花乃に説明させてきたのだ。花乃は思わず顔を引きつらせた。

「どうしました?花乃先輩。」

その様子を心配して窪内が声をかけてきた。

「那津の……旦那の……。」

「旦那さんがどうしたんですか。」

「旦那の同僚の人が今日家に来るみたい。」

この契約、早まったのかもしれない。


< 5 / 5 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

スピカ 〜異世界チート転生幽霊憑き〜

総文字数/1,931

ファンタジー2ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
空に浮かぶ島国シエル共和国。かつて四つの王国が戦争を繰り返していたこの島は、民衆の反乱によってようやく数年前に統一された。そんな王族の末裔スピカ・メランに転生した主人公。スピカは全てを見透かし全ての視界を操ることができる瞳、通称『魔王の瞳』を持っていた。スピカは強大な瞳の能力に怯えた親族から疎まれ虐げられ監禁も同然に暮らしていた。せっかくの異世界転生なのに使いこなせないチート能力を持て余し監禁生活を送る中、幽霊のエステルだけが友人としてそばにいてくれた。 しかしある日突然スピカのもとに幼馴染のジンが訪れ、魔術部隊へと連れて行かれてしまう。ジンは今や精鋭魔術部隊の隊長であり若きエースとして有名になっていた。そんなジンはスピカに『深紅の魔女のレシピ』を探すのを手伝って欲しいと言い出したのだ。 『深紅の魔女のレシピ』とは、凄まじい力を持った魔女が記した、たった十二ページの魔法書のことである。この魔法書があれば魔王に匹敵する力が手に入るとまで言われている。それが戦争中に行方不明なってしまっていたため、ジン達が探し出し回収することになったのだ。 しかしスピカは魔王の瞳を使いこなせないので、誰かに迷惑かけてしまうのではないかと不安だった。そんなスピカだがジンや魔術部隊との交流の中で少しずつ自己肯定感を高めていく。 そんな中『深紅の魔女のレシピ』が絡んでいると思われる事件が発生。しかしスピカの不注意で大惨事になりそうだったところをジンが庇ってくれて怪我をしてしまった。これをきっかけにスピカは自分の瞳を使いこなす努力をしようと決意する。 そうして次第に力を使いこなし成長していくスピカは、『深紅の魔女のレシピ』が戦争の武器として魔法の力を強制的に強める人体実験について書かれたものであり、それが深紅の魔女の強さの秘密であることを知っていく。そして深紅の魔女がいつもそばにいてくれたエステルであることも。正体を知られたエステルは『深紅の魔女のレシピ』をこの世から消して欲しいとスピカに頼む。平和が訪れたこの島国に不要な知恵だから、と。しかしそれは友人エステルとの別れを意味していた。 スピカはジンに支えられながら、『深紅の魔女のレシピ』を消し去り、エステルと別れを告げるのであった。その後スピカはジンと共に魔術部隊で平和に尽力することになる。 これは時代を切り拓いた二人のスピカの物語なのである。
聖女(仮)は体が資本です!

総文字数/2,384

ファンタジー2ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
 黒川くろえは聖女として異世界に召喚された。  その世界は壊れかけた世界だった。  それというのも、かつてこの世界では何度も異世界召喚が行われ多くの異世界人によって便利な科学技術が持ち込まれた。しかしそれらは魔法世界とは根本が違い、魔法世界の秩序を乱すきっかけになってしまっていたのだ。そのため異世界召喚は禁忌の術とされ科学技術も封印されているのであった。  しかし魔力の低い人々は、魔法が使えないので科学技術に頼る方が良いと考えた。そうして彼らは反魔法組織を作り、異世界人がもたらしたモノは必要だと主張して異世界召喚を試みていたのだ。そんな彼らによって、不運にもくろえは召喚されてしまったのだ。平凡なOL生活を過ごしていたはずだったくろえは、彼らから「聖女」と呼ばれた。  しかし反魔法組織が行ったことは大罪。呆気なくクロエの目の前で一人残さず逮捕されてしまうのだった。残されたくろえだがどうやら召喚は失敗だったようで、聖魔法どころか魔法そのものが使えない。しかしくろえにも異世界召喚ならではの特異な力があった。  それは腕力。  くろえを保護してくれたフィンリー率いる魔法部隊のガンマ班はお荷物なくろえをガンマ班の雑用係として保護することにしたのだった。しかしくろえが聖女であることは絶対に知られてはいけない。そのためくろえは男装して雑用係をすることになったのだった。  そんな中、異世界の品物サランラップによって汚染された水中に住む魔獣が暴走するという事件が発生する。くろえは元の世界の知恵と腕力を駆使してガンマ班の皆と事件を解決していく。そうしてくろえはただのお荷物ではなくガンマ班の人々にも認められていくことになるのだった。  理不尽に召喚され、理不尽に失望してくるこの理不尽な魔法世界を、くろえの腕力ではっ倒す。個性豊かな魔法部隊・ガンマ班で、主人公くろえと腹黒リーダーのフィンリーのコンビが繰り広げる痛快腕力ファンタジーが幕を開けた。 

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop