私を包む,不器用で甘い溺愛。
ほろりと溢れそうな涙を,嗚咽を,私は1つのしゃっくりで繋ぎ止めた。

榛名くんはまだ運ばれたばかりで,目を覚ましていない。

お医者様に預けただけで,他に私達に出来ることもなくエントランスにいる。



「心配かい? 君が心配しなくても,あいつなら大丈夫さ。1発ガツンとやられたって,すぐに起き上がるような頑丈なやつだから」

「ええ,そうよね,そう。私が心配したって,殴られたのが榛名くんの方だってこと,変わらないもの」

「……泣きたいなら,泣いたらいいんだよ,来栖さん。俺はそれまで口を出すほど,鬼みたいなやつじゃないから」



そんなことを言われると,また鼻にツンと来る。

でもだめ,だめなのよ有栖。

痛いのは,今頑張ってるのは,私じゃないもの……



「隠して,無かったことにしてやるから」



甚平くんはそう私のかたを抱いて,そっと自身に寄せた。

本当に,抱き締めるとすら呼べない,私を隠すためだけの弱い動き。

優しすぎて,温かすぎて,別の意味で涙が出そう。

だけど……



「ありがとう甚平くん。でも私,きっと泣かないわ。これで充分,ありがとう。甚平くんがこうしてくれるなら,私,自分をもっと鼓舞できる」



今は私,強く笑うわ。

甚平くんは私と目を合わせて,逸らした。



「うん……俺の,負けだ。君が望むだけ,俺はこうしてる」

「ふふ,ありがとう」



優しさが,私に流れ込んでくるよう。

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