迷惑をかけた相手になぜか溺愛されたようです。
しかし、入社後の現実は憧れとは程遠く厳しいものだった。
唯は、毎日のようにミスをしては上司や先輩に注意されている。
商品企画部を希望だったが、配属されたのは営業課の営業事務だ。
そして、今日も先輩から大目玉をくらったばかりだ。
同僚からはクスクスと陰で笑われている。
しかし、そんな唯をいつも慰めてくれていたのは、同期入社の、早川 直人(はやかわ なおと)だった。
直人とは新入社員の時から部署が一緒のこともあり、自然と一緒にいる時間が多くなった。
気が付けば、いつしか恋人同士といった感じだ。
今では直人だけが唯の心の支えになっていたと言っても過言ではない。
今日も会社帰りに、いつもの居酒屋で直人に仕事の愚痴を聴いてもらっていた。
直人は営業部に配属された時から期待の新人だった。
そして今では成績もトップクラスになっているのだ。
直人はいつも通りに、優しく頷いて話を聞いてくれている。
弱音を吐けるのは直人の前だけなのだ。
しかし、私の話が一段落すると、直人は珍しく神妙な面持ちで姿勢を正したのだ。
飲みかけのビールをゴクリと口に流し込み唯を真っすぐ見たのだ
「ど…どうしたの直人?真面目な顔して…具合でも悪いの?」
「ごめん…唯、仕事の愚痴を聴くのは…今日が最後だ。悪いけど…別れてくれ。実は部長の娘を紹介されたんだ…悪いな。」
直人は話を終えると、すまなそうに頭を下げた。
あまりにも突然の事に、頭がフリーズ状態になっていた。
直人が何を言っているのか、酔った頭は理解できない。
「…っえ?噓…冗談だよね。」
「いままでありがとうな…唯も幸せになれよ。」
直人はそれだけを言うと、静かに立ち上がり伝票を掴んだ。
そして、何も言わずに歩いて行ってしまったのだ。
唯は去って行く直人の背中をぼんやり見つめていた。
何が起きたのだろう。
今の状況に頭が追い付かない。
残された唯は、それからどうやって家まで帰って来たのか覚えていないくらいだ。