捨てられた令嬢はチートな精霊師となりまして

　今まで実家で忙しくし過ぎたのだ。しばらくの間は、のんびりと自然の中で過ごしたい。
　実のところ、イオレッタ一人なら一生働かなくてもおつりがくるぐらいの財産はある。実家から宝石類も持ち出してきたし、今までの収入も冒険者組合に預けてある。母の形見も預けてあるから問題ない。
　だが、自分の食い扶持ぐらいは確保しておかねば。
「こちらの町でしばらく暮らそうと思うの。滞在届を出してもいいかしら」
「珍しいわね。滞在届を出すなんて」
　受付に近づけば、カウンターの中にいた女性がイオレッタを見て微笑む。アリスと名乗った彼女は、イオレッタから銀製の冒険者証を受け取った。
「地元の組合長が心配性でね。届は出しておけってうるさいのよ」
　それは嘘ではない。イオレッタがベルライン家の娘であることを知っているベルライン領の組合長は、それはそれはもう心配性だった。
　最初のうちは、彼が自腹を切ってこっそり冒険者を護衛につけていたほど。