捨てられた令嬢はチートな精霊師となりまして
「あ、あの……祠にお供え物もしたし、日も暮れかけてますし……私、宿に行きますね」
「悪かった――いや、だましたつもりはなく」
 一瞬にして、二人の間にあった空気は変わってしまった。
 気安い関係は、きっともう戻ってこない。クライヴが、困ったような表情になる。そんな顔を見たいわけではなかった。
「わかってます。この国の慣習ですもんね。身分を隠して、世間を見て回る――いい慣習だと思います。外に出ないと、見えないことがたくさんありますから」
 イオレッタだって、知らなかったことがたくさんある。
 家を飛び出して、なんとか冒険者として生計を立てて。
 まさか、自分が幽霊の住み着いているワケアリ物件の住民になるなんて想像したこともなかったし、組合の治療所にはいろいろな人が集まってくるということも知らなかった。
 精霊が神に変化する時、周囲には精霊達の美しい光が満ちるということも。それを見る機会に恵まれた人々が、どれほど幸せな表情を浮かべるのかも。
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