推しは策士の御曹司【クールな外科医と間違い結婚~私、身代わりなんですが!】スピンオフ
「ずっと会いたかった」
 胸に抱かれて甘い声でささやかれ、倒れそうになる。
「私も会いたかったです」
 小さな返事をすると「本当ですか?」って声を出すので、その胸から顔を上げると目を輝かせて子供のような顔をしていた。策士なのか天然なのかわからなくて笑ってしまう。
「お仕事おつかれさまでした。おかえりなさい」
「ただいま」
 そっと自然に私の額にキスをして、もう一度強くギュッと抱きしめられた。普通の恋人同士のような仕草に泣けてきそう。
 私と専務は恋人同士ではない。ただの推しとモブだ。身分違いにもほどがある。成功率ゼロから2%の恋なのだから。

「何か飲みますか?温かいのにします?」
 自分から離れると、ちょっと残念そうな顔をして「咲月さんと同じのでいいです」と、言ってコートを脱ぐので受け取り、ハンガーにかける。その隙にまたあちこち見るので「あまり見ないで下さい」と注意する。恥ずかしい。
 飾っているブルガリのダイヤを見て笑顔を見せていたので、私は急に思い出した。
「忘れてました。専務にお返しするのがあって」
 借りていたハンカチと、タクシー代のお釣りと領収書を忘れないうちに専務に渡すと驚いた顔をされてしまった。
「こんなことされたの初めてです」
「庶民の柔軟剤ですいません」
「咲月さんの香りがしそうで嬉しい」クンクンとハンカチを嗅ぐ仕草が可愛らしくてキュンとなる。どんな仕草も推しは最強だ。
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