とある蛇の話


「ただいまー」


「あら、おかえりなさい。理央」


「あれ?遥は?っていうか、なんで母さんいるんだ?」




「遥がちゃんと更生できてるか、不安で仕事早めに終わらせて帰ってきてるのよ。わかんないの?それに、有馬くんのことがなんとなーく心配でね」




「そんなに有馬のことなんて……心配しなくても」




「でも、遥の事で頭がいっぱいになっている理央と比べたらマシでしょ?」




「俺はな、父さんにーーー!!」




言葉が滑り出しそうになったが、既のところで辞めた。



それは父との約束で、「口には出さず、秘密にしてくれ」との口実を結んだからだ。




「とにかく、母さんに話がある」



「あら……珍しいわね。なぁに?この期に及んで、おねだりなんて?」



「理央を俺と同じ、高校に入れてほしい」




「まぁ……それは……」




絶句するのも、想像できる。



「あの子は、高校に通ってもないのにどうやって………理央、手立ては立てているの?」




「それは……考えてないーーー」




「ちょっと、理央!!それならやすやすと口に出さないの!!」




「だけどーーこのまま、あいつがすっと家に引きこもるのも遥の衛生上よくないと思うんだよ……なんとなくっつーか……」





「そんな事言われても……具体例がなかったら……」



立ち尽くす俺達ーーそうだ転校する手立てがちゃんと整っていなければ話にならない。



「一体どうしたら……やっぱり、アイツの言っている事はからかいに近いのか……」




ーーーお困りのようだね?



自分の考えの甘さに、煮えきっていると頭の中でふと軽やかな声が聞こえた。



辺りを見渡す。




視界がモノクロに包まれており、家の中の家具やものがグニャグニャ歪んでる。



「……え?」


突拍子もない、突然の異変に頭が空っぽになる。



視点を動かした先には、白い猫が佇んでいた。



「こんばんは」



「え……えぇ!?だ……誰ってか、なんで喋ってる!?」



俺はあまりの状況になり、狼狽え机にあった工作用のハサミを掴み取る。



手が空を切り、物質は掴めない。




「無駄だよ。この空間は、僕が支配した」




「空間……って事は、あんたまさか……神様なのか……?」



「そうと言ったら、どうする?」



さっきから、地蔵のようにピクリとも動かない母さんを踏み台にして、頭の天辺に登った。



高みの見物とでも言おうか。



「さて……君には、願いを叶える権力と言うなのポイントがある程度貯まってるよ」



白猫は優雅に尻尾を振りながら、俺をしみじみと見つめだす。



「何が目的だ?」



「どうしてそう、反抗的なのさ?」



「お前の言っていることが、本当なら一般人である俺に近づいて願いを叶えようなんて魂胆は、何か裏があるとしか思えない」



「君はいつもバカなくせに、こういう時だけ頭が回るね。もしかして、弟にちょっかいを掛けられたくないから?」



ドットアイの瞳が、微かに細く歪む。






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