愛を奏でるワルツ~ピアニストは運命の相手を手放さない~

プロローグ


薄茶色の石畳、歴史ある石造りの大きな教会。
路面電車の向こうには観光用の馬車が優雅に進む。
広場にはオープンカフェが広がり、そこかしこから音楽が聞こえる都、ウィーン。

明かりの灯る荘厳な教会の中で私の前に立つのは、長身、焦げ茶色の髪の美しい男性。
その彼が、宝石のような濃い青色の瞳を細めて私を見下ろす。

「愛している」

低く、甘い声が誰もいない教会で、讃美歌のように降り注ぐ。
長く美しい指が、私に手を差し伸べてられる。

私は涙を浮かべ、彼の胸へと飛び込んだ。
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