愛を奏でるワルツ~ピアニストは運命の相手を手放さない~
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私達は、ホテルザッハー近くの通りを歩いていた。
グロリエッテでレンは私が質問しても自分の仕事のことをそれ以上話すことをせず、結局次の目的地に向かうことになった。
また庭園を降りていくのかと思えば、グロリエッテの真横にある森を抜けていけば通りに出た。
そこからまたタクシーで移動になったのだが、お店が増えていくのを見て私がうずうずしているのを気付いたレンが、少し前でタクシーを止めてくれた。
「ここ、レンが助けてくれたところだね」
二人で通りを歩いていて、ふと気付いた。
観光客や地元の人達が多く通るこの場所。
すぐ近くにはオペラ座が見える。
「あぁ、ここだったのか」
レンは少し周囲を見たが、場所を覚えてはいなかったようだ。
「そうだよ。
あそこで助けて貰わなかったらきっとスリに遭ってショックを受けた旅行だったし、レンと出逢って一緒に観光していることも無かったんだよね」
しみじみ言うと、レンはやはり私の手を繋いだまま前を向いている。
「あの時は、日本人の子供がカモにされているのを放っておくかどうしようかと思っていた」
え!と私が言うと、レンは私をチラリと見る。
「その後に仕事があったからな、面倒ごとに巻き込まれるとまずいというのもあった。
結局子供の困った顔に負けたわけだが」
「子供に見えるのは嫌だけど、そのおかげでレンと出逢ったんだから良いのかな」
複雑な気持ちで俯くと、私の手を握るレンの力が少しだけ強くなった。
何かの合図のように思えて顔を上げると、
「スワロフスキーは知っているか?」
「もちろん」
唐突な話に私は真面目に返してしまった。
この通りは色々なブランドショップやお土産物屋があり、そこでSWAROVSKIと明るく照らされたディスプレイには、キラキラと輝くアクセサリーが並んでいた。
「スワロフスキーはオーストリアのチロル地方で始まったんだ。
気が付けばあっという間に世界的な人気になってしまったが」
「スワロフスキーってオーストリア発祥だったの?
それは知らなかった。
あ、いや、ガイドブックのお土産ページに書いていた気がする」
二人で外からガラス張りのディスプレイを覗き込むと、音符のブローチが飾ってあった。
丸い部分に大きな青色のスワロフスキーが一石あり、他にも細かな透明のスワロフスキーがちりばめられて、ライトの光でより輝きを増している。
「あの音符のブローチの石、レンの瞳の色に似てるね」
「そうか?
あんなにキラキラしてはいないだろう」
「そうかな、私にはレンの瞳はキラキラして見える」
手を繋いだままのレンに笑いかけると、レンはサングラスを掛けているのでその目は分からないが、手がまた軽く握られた。
「欲しいのか?」
「ううん、みんなのお土産を買うのが優先。
私はレンに沢山奢って貰ったり観光に連れて行って貰えているから、もう十分過ぎるくらいお土産を貰った気分なの。
もしも日本語出来るガイドやとってたらとんでもない額になってたと思うし」
そうだ、レンのいるおかげで私はドイツ語のこんにちは、ありがとうくらいしか話していない。
どこでも全てレンが対応してくれたからだ。
それもこんな恐ろしいほどに格好いいガイド、二日間独り占めなど金額を考えたくは無い。
「・・・・・・そうか。
時間も無い、ザッハーに行くぞ」
「うん」
私達はまだ明るい通りを、手を繋いで歩いた。