愛を奏でるワルツ~ピアニストは運命の相手を手放さない~
「やっぱりアクセサリーくらい持ってきておけば良かった。
それにこのワンピース、一昨日楽友協会へ着てったばかりだし」
私は着替えて、大きな鏡の前に立っていた。
鏡があるのは大きな洋服ダンスのような家具。
こちらは真っ白なデザインで、マリーアントワネットが好きそうな可愛らしいイメージ。
その扉が鏡になっていて、私はそれを使い全身を確認する。
念のためにかかとがぺたんこな黒の靴を用意していたが、膝丈、白地に青い小花のデザインのワンピースでは余計に子供に見られそうな気がしてきた。
しかしあのピアノが聴ける、それも生で!
もうCDですら聴けることは無いと諦めていた私は、服装など二の次だと自分に言い聞かせる。
お出かけ用に持ってきていたポシェットに必要最低限の品とチケットを入れたことを確認し、部屋を出た。
ロビーに降りると待ち構えていたようにバトラーが来た。
「Please follow me」
そういうと彼はホテル入り口とは逆方向に進み出す。
あれ?もしやここでレンがいるとか?と困惑しながらついていくと、どうやらホテルの後ろ側にあるドアが開いていた。
そこにもスタッフが確認のためか立っている。
バトラーは外に指を指し、
「The hall is over there.
please enjoy yourself」
指さした向こうに見えるのは楽友協会の建物。
まさかこんな近くだったなんて。
私はバトラーに礼を言い、楽友協会へと向かった。