愛を奏でるワルツ~ピアニストは運命の相手を手放さない~



スマホの時計を何度も見て、ソファーに座ったり部屋をうろついたり。
十一時間近というところでドアが開く音がした。
私は急いで入り口に行くと、今朝別れた時の洋服だが髪の毛はセットされたままのレンが驚いたように目を丸くしていた。

「レン!」
「寝てなかったのか?」
「そうじゃなくて、さっき」

話を続けようと顔を上げている私に、レンは困ったような顔をして私の頭に手を置いた。

「とりあえず俺もシャワーを浴びてきて良いか?
話はそれからしよう」
「そうだよね、ごめんなさい」
「謝らなくて良い。
それとおそらくシャワーを浴びている間に、軽食が来ると思う。
対応してもらえるか?」
「もちろん。
疲れたよね、ゆっくりお風呂に入ってきて」

あぁ、とレンは部屋に入り、持ち手のある大きな黒い袋をソファーに放り投げてバスルームに行ってしまった。

もしやと思ってその袋のファスナーを開けてみれば、ハンガーにかかった黒のスーツが入っている。
クローゼットに掛けようと取り出せば、見覚えのあるデザインだった。
ぼーっとしそうだったが我に返り、スーツをクローゼットにしまったと同時にドアベルが鳴る。
担当のバトラーが食事を持ってきていて、部屋に入って大丈夫かと聞かれたのでOKと答えた。
バトラーはまずは私が食べ終えて横に集めていた食器などを片付けてテーブルをさっと綺麗にし、再度新しいクロスを敷いてその上に銀の蓋のついたスープ皿、サラダ、パンを並べる。
細長いグラスを二つに、銀のワインクーラーには沢山の氷の中にシャンパンが一本。
おそらくこれは高いヤツだ。
逃亡した社長が喜んで持っていたのを見たことがあったから覚えていた。
最後に焼き菓子がいくつか入った小皿を置いて、バトラーはお休みなさいと言って出て行った。

バトラーをドアで見送り部屋に戻れば真っ白なバスローブを着て、髪の毛を無造作にタオルで拭いているレンがいた。

バスローブはきっちり着ていないせいで、胸元がかなりはだけている。
厚い胸板と鍛えられた身体が目に入り、見てはならない物を見てしまった気がして、私は思わず目をそらした。
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