愛を奏でるワルツ~ピアニストは運命の相手を手放さない~

「タイミングが良かったな。
楓、シャンパンは好きか?」
「シャンパンというかスパークリングワインしか飲んだこと無くて」
「ま、似たようなもんだ、こっちに来い」

そう言ってレンは大きなソファーに座ると、シャンパンの瓶を取って堅そうなコルクを簡単に抜いてしまった。
私も一人用のソファーに腰掛けようとすると、

「俺へ労りがあってもいいだろう?隣に来い」

確かにレンには二日間世話になりっぱなしだ。
そして極めつけはさっきのこと。
そんな相手にお酌することも頭から飛んでいた私は、失礼しますと小声で言ってレンの隣に座った。

隣からふわっと香るのは私も使ったボディーソープの香り。
香りが自分と同じ物であることに、恥ずかしくて頬が熱を持つ。

レンにシャンパンを指さされて私は慌ててワインクーラーから取ると、瓶を一緒に置いてある白のナプキンで瓶に着いた水を拭き取ってから、レンが持っているグラスへこぼさないようゆっくりと注いだ。
こぼさずホッとしてワインクーラーに戻そうとしたら、レンが取り上げてテーブルに置いてあったもう一つのグラスに注ぐと、私に差し出した。
私はお礼を言って受け取る

「Prost!」

ネイティブなドイツ語でレンは言い、私もプロースト、乾杯という意味の言葉を言ってシャンパンを飲む。

「美味しい・・・・・・」
「飲み過ぎるなよ?弱いんだから」

言葉が自然と漏れると、レンは笑いを含んだ声で注意してきた。

「疲れたでしょ?まずは食事してね。
一杯聞きたいことがあるからその後に良いかな?」
「だろうな。
だがもう時間も遅いし食べながらで良い。質問をどうぞ」

レンは言いながら銀の蓋を取る。
そこには金のスープに大きな肉団子のようなのが三個入っているものだった。

「これはレバー入りの肉団子スープ。
レバークネーデルズッペと呼ばれている。
ほら、一口食べてみろ」

レンは肉団子を一口切って私の口元に差し出す。
先にレンがちゃんと食べて欲しいのに。
私は仕方なく口を開けて食べた。

「おいし」
「そうか。
レバーが苦手だと嫌がるヤツもいるんだが、楓はこっちの料理は割と口に合うようだな」
「そうだね、どれも美味しいと思う。
ドイツ料理は美味しくないなんて聞いたこともあるけどそんなこと無いね」
「ホワイトアスパラも美味いんだ。
だが出回る時期が限られているから、その時に連れてってやるよ」

レンはパンをちぎり、スープに浸しながら味わっている。
デメルに連れて行くとか、ホワイトアスパラを食べさせるとか。
こうやって見知らぬ人間に出来もしない先の話をするのがレンは普通なのだろうか。
シャンパンをちびちびと飲みながら、そんなことを考える。
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