愛を奏でるワルツ~ピアニストは運命の相手を手放さない~
翌日たまたま本屋に寄った私は、自分の認識が色々と甘いことを知った。
(なに、これ)
何か情報はと音楽雑誌のコーナーに行くと、そこにはレンの顔を大々的にとりあげた本が数冊あった。
数冊というのは、そもそもクラシックの月刊誌などあまり無いからだ。
それら全てがレンを表紙にしていることに驚いた。
アップだったり、全身だったり。
表情は何も感じられないかのように冷たさを醸し出している。
まるで知らない人のようだ。
レンはどんな気持ちでこの仕事を受けたのだろうと心配になっていた。
「わ、レンだ」
一つの雑誌を取ったとき、隣から聞こえた女性の声に身体がびくりと動く。
ちらりと横を見ると、女子大生くらいに見える女性二人がレンが表紙の雑誌を手に取り話し出した。
「誰それ」
「今大注目のイケメン天才ピアニストだよ!
『氷の貴公子』って呼ばれてるんだって」
「へぇ、知らない。しかし氷の貴公子ねぇ。
確かにめっちゃイケメンだし冷たそうな雰囲気だから納得」
「確かドイツ人と日本人のミックスかな、そりゃ格好いいよね。
普通の芸能人なんて霞むほどモデルでも通じるレベルだよ。
貴公子なんて呼ばれるくらい品が良いし」
「氷の貴公子はピアノも上手いの?」
「さぁ?ピアノは知らない。
だけど天才って書いてあるんだもの、どこも」
「ぶっちゃけ天才だろうがどうでも良いよね、こんなにイケメンなら見に行きたいわ」
だよねー、と女性二人の声が遠ざかる。
私は手に取った雑誌を本棚に戻す。
本当ならここにあるレンの載った本は全て欲しい。
欲しいけれど、それをして良いのだろうか。
レンが好んでくれた私は、消えてしまわないだろうかと不安が襲う。
私は未練を断ち切るように、売り場から離れた。