愛を奏でるワルツ~ピアニストは運命の相手を手放さない~
打ち合わせはこのホテルのレストランらしく、私は朝食をレンが取ったことを申し訳なく思った。
おそらくランチを兼ねた打ち合わせだったのだろう。
だけど私に一人で朝食を取らせないためにこちらを優先させてくれたのかと思うと、この後大丈夫だろうかと気になる。
「どうした?」
カジュアルなカットソーにジーンズ姿なのに、レンが着ると全てお洒落に見えるのは何の魔法だろう。
「ごめんね、本当はランチの約束だったんでしょう?
なのに朝食食べさせちゃって」
自然と俯いたら、私の頭に軽く手が置かれる。
「すぐ謝るのは日本人の悪い癖だ。
何故そこで俺が朝食を食べたかっただけ、というのは想像つかないんだ?」
「レンは気遣いの人だもの。
私が寂しくないように、一緒に食べてくれたことくらいわかってる」
レンは目を細めて私の頭を撫でた。
子供扱いに思えるけれど、安心する。
「違うな。
俺は、食事するなら気持ちよく過ごせる相手としようとしただけだ。
おっさん達のすりよった笑顔に囲まれて、食事が美味いと思うか?」
レンがおじさん達に囲まれる姿を頭に浮かべ、眉間に皺が寄った。
それに気付いたレンが吹きだした。
「じゃぁ一時間ほどで戻るからイイコにしていろよ」
部屋の玄関でレンは私の唇に軽くキスをすると、行ってしまった。
部屋でテレビでも見ていようかと思ったけれど、緊張の糸が解けたように眠気が襲ってくる。
向こうにはベッドルームに繋がるドア。
「三十分だけ、良いよね」
さっきまで二人で寝ていた大きなベッドに横たわる。
レンのつけている爽やかな香水の香りがして、何だか昨夜のことが思い出されて恥ずかしい。
そういえばこの部屋の掃除って何時なのだろう。
でもレンが戻ってくるしその後かな、などと考えていたらあっという間に眠りに落ちていた。