愛を奏でるワルツ~ピアニストは運命の相手を手放さない~


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翌週の土曜日、私はレンのホテルに向かっていた。
鞄の中にはレンがくれた、私の分のカードキーがある。
あの部屋に行くには、エレベーターの中でカードキーをかざさないと降りられない。
なので今までレンが迎えに来てくれたが、好きなときに私が来られるようにとカードキーを渡された。
これを使うのは二回目。
だがコンサートも近くなり、コンサート前にホテルで一緒に過ごせるのは二人の都合も合って今日と明日だけになった。

会社から出るときにレンに送ったメッセージの返信は、既に部屋に戻っていて到着する頃に食事を用意しておくという内容だった。
ホテルのあるビル入る前に、レンへホテルの一階についてもうすぐそちらに着くとメッセージを送り、エレベーターホールに足を進めた。

「篠崎楓さん」

急に名前を呼ばれ振り返る。
そこにはスリットの入ったスカートにジャケット姿の、レンのマネージャー、高野さんが立っていた。
彼女を見ると無表情。
私の前に立った彼女は私より身長が高いので見下ろしてくるのだが、その目は敵意に満ちていた。

「ちょっとこちらへ」

腕を掴まれ、問答無用でホール外の人気の無い場所に連れてこられた。
ビルの味気ないこの場所は、風が強く吹いて思ったより寒く感じる。
彼女の様子からおそらくレンとの事を気付かれたのかもしれない。
もしかしたらレンが話したのかも知れないが、レンから何も聞いていない以上迂闊に話すのは気をつけたほうが良い。

「先日インタビューに同行してたわよね?」
「はい」

彼女は自分を既に知っている前提で名乗ることもせず聞いてきた。
声は苛立ちを押し殺しているがわかる。

「それで、何故貴女がここにいるのかしら」

バレているのかバレていないのか判断がつかない。
とにかく動揺を気付かれないように平静を装う。

「私のプライベートを貴女にお話しする必要など無いと思いますが」

彼女の目が見開かれ、チッ、という音が聞こえた。
まさかの舌打ち。
美人が怒ると迫力がある。

「とぼけないで。
レンに会いに行くんでしょう?」
「用事がありますので失礼します」

頭を下げ彼女の横を通り過ぎようとしたら、再度腕を掴まれた。

「インタビューのあった数日後、レンと二人で部屋に入ったのを見ているわ」

私はそれに何も答えないようにした。
あの時誰か近くにいた記憶は無い。
鎌を掛けられている可能性だってある。
だけど高野さんの目は逃さないというように私の腕を掴んだまま。
既にレンに連絡してから時間が経っている。
心配させているのではと気になっていた。

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