愛を奏でるワルツ~ピアニストは運命の相手を手放さない~

「手を離していただけませんか」
「貴女、レンの将来を潰したいの?」

私は彼女と視線を合わせた。
それを待っていたかのように彼女は私を睨む。

「この日本公演、今後レンが日本で求められるかがかかっているの。
欧米では既に有名なレンも、日本では無名に近い。
日本ではレンをモデルくらいにしか思ってないのを、今回の公演で実力を知らしめるの。
氷の貴公子だろうがなんだろうが、彼が孤高のピアニストだからこそより人は惹きつけられる。
それが貴女みたいな何の取り柄も無い日本人と交際しているのがバレたらどうなると思う?
まだ彼の実力を知らしめる前に、モデルのスキャンダル扱いで盛り上げられてしまうだけ。
貴女の存在は、レンの将来を潰すのよ。
まさかそんなこともわからずに、軽々しく彼と会っていたんじゃ無いでしょうね?」

彼女は段々早口になり、一気に私へぶつけてきた。
表情は今にも胸ぐらを掴んできそうな勢いで、私はその剣幕に気圧される。

「私はずっと彼を支えてきたの。
ルックスを売りにしてでも、彼の音楽を世界に認めさせたかった。
今まで渋ってた日本公演を急にOKしたのかと思えば、こんな女が理由だったなんて。
私がここまで彼と来るのに、どれだけ苦労したと!」

私の腕を掴む彼女の手が恐ろしいほどに力が入り、私は思わず痛さで顔をしかめた。

「楓!」

腕が解放され、視界に焦ったような顔で走ってくるレンが見え、あっという間に私を抱きしめると高野さんから距離を取った。

「どういうことだ、ミア」

聞いたことも無いほどに彼の声は低く冷たい。
レンの胸に閉じ込められた私は、高野さんがそれを聞いてどんな表情をしているのかわからない。

「どうもこうもないわ。
レン、しっかりしてよ!
あなたはグローバルに、音楽の世界で活躍出来る選ばれた人間。
それがこんな訳の分からない女に時間を割いてはいけないでしょう?」
「ミア、楓を侮辱する言葉は許さない」

ぎゅっと私を抱きしめるレンの力が強くなった。

< 66 / 88 >

この作品をシェア

pagetop