愛を奏でるワルツ~ピアニストは運命の相手を手放さない~
その夜、レンから電話がかかってきた。
『今日のコンサート、正直に感想を聞かせてくれ』
神妙な声では無いが、耳を試されているのか正直さを試されているのかわからない。
素直に楽友協会で聞いた時より物足りなさを感じたことを伝えた。
『やはりそうか』
「やはりって?」
『そもそも楽友協会とこのコンサートホールでは大きさも作りも違う。
雑なたとえだがホールをテレビの大きさに例えれば、楽友協会はテレビのインチは小さいがすぐ間近で見られて音質も良い。
だがここのコンサートホールは大画面だがその分距離も離れて音も散らばるって感じだろうか。
言っている意味、わかるか?』
「凄く良くわかった。
迫力が違うってそれは痛感した。
でもその」
『オーケストラだろ?』
「・・・・・・うん」
そうなのだ、オーケストラが何だか物足りない。
私で気付くならレンも気付いていて当然だ。
『日本のオーケストラだからなのか、ここのオケがそうなのかわからないが、俺に遠慮しているんだろう。
海外ではオケの方が、ピアニストを見極めてやると強気で来られるからこちらも実力でねじ伏せられるが、これを日本でやったら相手は萎縮するというか遠慮するのだと学んだ。
だが明日は、強気でやってもらうように頼むとしようかな』
レンは不服に思うよりも楽しんでいるような声だ。
なんとか上手くいっているようでホッとする。
だけどそれは間に入っているミアさん達の功績が大きいのだろう。
『楓』
「ん?」
『両親に会わせると話したが、それは俺が早急すぎたと反省している。
全て片付けて楓の答えを聞くのが先だ。
だからそこは気にしないで欲しい』
「ありがとう、流石に合わせる顔が無かったから」
『でも、こうやって楓が聞きに来ていると思うとより楽しませようと気合いが入る』
優しげな彼の声に私の胸は締め付けられる。
自信を持とうとして、しかしすぐに自信を無くして。
それを彼が何度も手を差し出して私の手を繋いでくれる。
そして横にいさせてくれるんだ。
「高校生にも間違われたくらいの私が、レンの隣に立って良いのかなっていつも思うよ」
こうやって弱音を吐いて彼が手を差し伸べてくれるように待っている、私はなんてずるい女なのだろう。
すると向こうから軽い笑い声が聞こえた。
『俺が欲しがるのは楓だからだ。
二日間働いた報酬、しっかり楓からもらうつもりだ、安心しろ』
「安心できないです」
やっぱり彼は手を差し伸べてしっかり握ってくれる。
本当に支えているのはどちらだろう。
「明日も楽しみにしてる。
そして、終わったら楽屋に行くね」
『あぁ。連絡をくれ。
いいか?俺は楓が必要なんだ。
答えを早まるなよ?』
しっかりとレンに念を押され通話を終える。
もう私は覚悟を決めなきゃ行けない。
そう言いながら心は決まっていた。
部屋の隅にかけてあるワンピースを見る。
これはウィーンの楽友協会で着ていった物。
そして胸元につけるのは、レンがくれたあのブローチ。
この戦闘服と御守りをつけて明日はコンサートへ行く。
私は気持ちを引き締め、忘れ物が無いか再度鞄を確認し始めた。