愛を奏でるワルツ~ピアニストは運命の相手を手放さない~
楽屋に行くと長細い通路があり、その横にはいくつも扉が開いていて沢山のオーケストラ団員達が片付けや観客か身内か分からないが、花束やお土産を受け取ったりして談笑している。
その中を抜け、奥を曲がると一気に誰もいない。
ドアを見ると指揮者の名前が書いているドア、次に進むとピアニスト『蓮 Heinrich』という札のかかっているドアを見つけ、私は呼吸を整えてドアを叩く。
「どうぞ」
覚えのある女性の声を聞いて緊張しながらドアを開けると、部屋にはジャケットを脱いでボタンをいくつか外したレンと、その隣にはパンツスーツ姿のミアさんが立っていた。
文句のつけようが無い美男美女。
ここまで来たのにまた心が落ち込みそうになるのを堪え、私は頭を下げた。
「まずはコンサートのご盛会を心よりお慶び申し上げます」
顔を上げるとレンは不思議そうな顔、ミアさんは眉間に皺を寄せていた。
もしや、通じていない?!間違ってた?
私は急いで言い直す。
「素晴らしいコンサートでした、お疲れさまでした」
レンは言い直した意味に気付いてくれてありがとうと微笑み、ミアさんは黙っていた。
「前置きは良いわ。この後も忙しくて時間が無いの。
レンとは別れるって答え、聞かせてくれる?」
彼女は腰に手を当て私に言い放った。
レンはいつの間にか私の横にいて驚いて見上げる。
そっと大きな手が私の右手を握って、私はその手を握り返し彼女の目をしっかりと見た。
「レンとは別れません、それが私の答えです」
ぐっとレンが私を握る力が強くなった。
ミアさんは肩を上げて、おおげさにため息をついた。
「話したわよね?貴女がいれば彼の将来を潰すと」
「確かに私は見た目だって地味ですし、何か秀でた才能を持っているわけでもありません」
「でしょう?」
「だけど、何があっても彼の味方でいる、それだけは断言できます」
答えた私を見て彼女はハン、と鼻を鳴らした。
「そんなの私が今までやってきたことを見れば、私の方こそ味方だと皆がわかるわ」
「はい。今の有名ピアニスト、レン・ハインリッヒがあるのはミアさんはじめ多くの方々のおかげだと思います。
ですがもし、レンがピアノを止めても私はその選択を支持しますしその後も味方でいる、それを言いたいんです」
ミアさんは目を酷く見開き、怒りを露わにして私に数歩近づいた。
「貴女、レンにピアニストを止めるようそそのかしてるんじゃ無いでしょうね?!
だから今まで嫌がっていた日本公演を急に」
「ミア、それは違う」
ずっと様子を見て黙っていたレンが初めて口を挟んだ。