愛を奏でるワルツ~ピアニストは運命の相手を手放さない~
「日本公演を断っていたのは以前から言っているように、ピアニストとしての俺を求めていない物ばかりだったからだ。
今回受けたのはもちろん楓に会うという為でもあったが、指揮者が俺に何度も熱意あるメールを送ってきたからだと伝えただろう?
だからこそ二日目はより良い演奏になった。
それに楓にだけは伝えてあるんだ、いずれ俺が音楽の学校を作りたいことは」
ミアさんが驚き、口を少し開けたままレンを見ていた。
「少し前まで俺はもうピアニストとしてどこに向かっているかわからなくなっていた。
疲れ切っていた時に、ウィーンの街角で楓に出逢った。
彼女は俺が自分の聞いたピアニストとは知らず、目を輝かせてどれだけピアノを聞いて興奮したかを伝えてくれた。
ミアからすれば、たかがそれだけのことと思うかも知れない。
けど俺は心から救われたんだ」
ミアさんが驚いた顔をくしゃりと歪めて泣きそうな顔になり、声を荒らげた。
「そんなに苦しんでいたならなんで私に言ってくれなかったの?!」
「ミアが必死に俺を有名にしようと努力していたことを知っている。
下げたくも無い相手に頭を下げ、罵倒されていたことがあるのも知っている。
だから、言うことなど出来なかった」
レンはゆっくり話しかけると、ミアさんは唇を噛みしめ、俯いた。
「楓の気持ちに救われ、その無邪気に俺の音を愛してくれたことで、こんな風に喜んでくれる人をもっと増やしたいと思ったんだ。
特に日本では音楽というのは嗜好品扱いに近い。
いずれはここで音楽学校を作って、子供達に楽しさを知って欲しいと思っている」
私は横にいるレンを見上げた。
彼は目を細め私を見下ろす。
レンが音楽学校を作りたい、その理由も聞かされていた。
だが日本に作りたいというのは初耳だった。
そこまで彼は先を見て考えていたなんて。
そんな彼が誇らしい。
私はそんな彼の味方でずっといたいと、より強く思えた。
「ミアさん、お願いがあるんです」
私はレンに視線をよこし手を外す。
そして一歩進み彼女のすぐ前に来て深く頭を下げた。
「身勝手だと分かっていますが、どうかこれからもレンのマネージャーを続けていただけないでしょうか」
部屋は静まりかえり、何の反応も無い。
私は頭を下げたまま続ける。