愛を奏でるワルツ~ピアニストは運命の相手を手放さない~
「ミアさんがいたからこそ、レンが有名になったのだと私は思います。
日本でのレンの売り方、本当に脱帽しました。
現に日本ではレンの単独コンサートを求める声が大きくなって、また話題を起こすのは間違いないと思います。
私はピアニスト、レン・ハインリッヒのファンとして純粋に嬉しい。
けど恋人としては彼に伸び伸びピアノを弾いて欲しい、そんな気持ちなんです」
「身勝手ね」
ミアさんが吐き捨てるように言い、私は顔を上げる。
「はい。自分でもそう思います。
レンは夢を持っているけれど、まだまだピアニストとして活躍したいのもわかっています。
私がレンのピアノを聞いて心を揺さぶられたように、これからも同じような人達はきっと沢山出てくる。
だけどレンは仕事をしながらまた消耗してしまうと思うんです。
彼にはやりたいことをして、でも疲れた心を癒やせる場所に私はなりたい。
レンが他人から何か言われても、私は彼にとって絶対的な味方でいたい。
それは私だけが出来ることなのだと思っています」
レンを見るとその目は驚いていたが、やがて目を細めた。
私は再度ミアさんを向く。
「それにミアさんは、ピアニスト、レン・ハインリッヒの大ファンでしょう?
もう少し側で見ていたいとは思いませんか?」
笑顔で言うと、彼女の顔が赤くなっていく。
ふい、と顔を逸らされたが、それが嫌な物には感じなかった。
しばし誰も話さず私が声を出そうかと思ったとき、ミアさんがレンの方を向いた。
「レン」
「なんだ」
「違約金がかかるの」
急な言葉にレンも一瞬面食らったような表情になる。
「これから約一年半、既にスケジュールが組まれていて、それをこちらが蹴れば違約金を払うのはこっち。
どうするの?やるの?
やるならマネージャーが必要よね、それも敏腕の。
必要なら、いてあげても良いけど?」
側にいた私は段々ハラハラしてきたが、最後の言葉に私は驚きレンは楽しげに笑った。
「そうだな、これからも頼む」
「ならまだ予定はあるから早く着替えて。外で待ってる。
・・・・・・篠崎さん、マネージャーとして言うわ。
レンを、頼むわね」
ドアを開ける前にミアさんは私達を見ること無くそういうと、ドアは静かに閉まった。
良かった、やはりミアさんは心からレンの事を大切にしてくれている。
こんな酷い我が侭を彼女は受け入れてくれた。
だから私は、彼女の気持ちにこれから応えていかなければ失礼だ。
私は既に閉まったドアに向かい、深く頭を下げた。