魔界の王子様は、可愛いものがお好き!

魔王様は壊したい


「わかりました。全て言う通りにします」

 アランに成りすました俺は、まっすぐ魔王を見つめて、そういった。すると魔王は

「そうか、なら、まずは二人を渡せ」

 と、玉座に座ったまま、手を差し出してきた。でも、かなり距離があるし『持ってこい』ってことなんだろう。

 だけど、渡したら壊される。

 俺は一度シャルロッテさん達に目を向けると、また魔王に話しかけた。

「わかりました。でも、最後に少しだけ、二人と話がしたいです」

 大切な人形たちとの最後の別れ。

 俺は、イチかバチか、これに賭けることにした。話すためには、この呪符をはがさなくてはならないから。

 すると、差し出していた手を下げた魔王は、次に玉座から立ち上がった。

 ピリッと場の空気が、引きしまる。

 魔王が腰をあげた。その姿を見て、その場の全員が息を飲んだのが分かった。

 カツカツと魔王が近づいてくる。

 長い黒髪が速度に合わせて揺れて、真っ黒なマントで全身を覆った魔王の威圧感は、とてつもなく重い。

 顔はアランと同じで、すごく整った顔をしているに、その目はとても冷たかった。

 はっきり言って──怖い。

 つーか、ほんとに親子か!?
 アランはいつもニコニコしてるのに!?

 心の中では、かなりビビっていたけど、あくまでも、落ちついた態度で、アランとしてふるまった。

 すると、そうこうしているうちに、ついに魔王が俺の目の前までやってきた。

「いいだろう」
「……え?」

 ちょっとびっくりした。
 それって、はがしてくれるってこと?

 少し疑っちゃったけど、魔王は俺の手から二人を取ると、言葉の通り、呪符をはがしてくれた。

 案外あっさり剥がしてくれて、びっくりした。でも、それからしばらくして、シャルロッテさん達が、目を覚ました。

 呪符をはられていたせいか、体は思うように動かないみたいだったけど、二人ともしっかり目を開けて、俺を見上げてきた。

「よかった……!」

 二人を受け取って、俺は、ほっとする。

 呪符をはがせた。これであとは、アランが花村さんを助け出せば──

「うッ──!!?」

 だけど、その瞬間、いきなり魔王に胸ぐらを掴まれた。片腕で頭上高く持ち上げられて、地面から足が離れる。

「……ッ、は、なに」

「貴様、アランではないな」

「え?」

「アランがしてるのは、金色の腕輪だ。銀色ではない」

「……ッ」

 ──バレた。
 俺が、アランじゃないって!

 すると、魔王が俺に向けて手をかざした瞬間、アランがかけた《変身魔法》がゆらゆらと解けだした。

 銀色だった髪は、赤毛の髪に変わって、服装も背丈も元通りになって、あっという間に、威世(いせ) 颯斗(はやと)の姿に戻る。

「ほう……元に戻っても、この波長なのか、確かにアランとよく似ているな」

「ッ……ぅ、は」

 苦しい、首がしまって息ができない。

 魔王のやつ、アランに、ほとんど会いに来てなかったくせに、金色の腕輪をしてたことは知ってたんだ!

「アランはどこだ。一緒にきたのだろう」

「誰が、教える……か、」

「そうか。では、こっちの人形達から始末するとしよう」

 すると、魔王が足元を見つめた。

 さっき、掴みあげられた時に、落としたシャルロッテさんとカールさんを!

 まずい! 踏みつぶすきだ!!

「やめろッ!!!」

 とっさに魔王の脇腹を蹴り上げた。サッカーは得意だから、蹴りには自信がある。

 だけど、軸足が宙に浮いてるせいか思うように力がでなくて、俺は更に追い打ちをかけようと、魔王の手を思いっきりつねった。

「くッ……!」

 すると、魔王が軽くひるんだ。
 どうやら痛覚はあるらしい。

 おかげで、なんとか魔王の手から離れた俺は、すぐさま、シャルロッテさんたちに呼びかけた。

「二人とも、腕輪の中に入って!!」

 手の平に乗せて叫べば、二人がシュッと消えたと同時に、魔王が、俺に向かって剣を突き立ててきた。

 早い。それは、見えないくらいの速度で

 ガキン──ッ!!!


「は、はぁ……」

 間一髪、魔王の剣を交わした。

 服の袖がすこし切れたけど、あと少し反応が遅れていたら、服だけじゃすまなかったかもしれない。

 だけど、シャルロッテさんたちは今、俺の腕輪の中。ここなら、絶対に魔王でも壊せない!

「すばしっこい……それに、なかなか頭もいい」

 すると、床に座り込んだままの俺を、また魔王が睨みつけてきた。目は殺す気満々って感じ。だけど、そのあと

「君は、アランのお気に入りらしいな」

「は?」

 急に、そんなことを言われて、こめかみを引くつかせた。

 お気に入りって……っ

「俺は、アランの友達だ!! お気に入りとか物みたいに言うな! それに、シャルロッテさん達だって、アランにとっては家族みたいに大事な人たちなんだ! それなのに、なんで壊そうとするんだよ! なんで、わざわざ子供が悲しむようなことするんだよ! あんた、アランの父親なんだろ!!」

「「ひぃぃぃぃぃ、魔王様になんてことをぉぉぉぉ!!!?」」

 俺の言葉に、魔族たちは、みんな震えあがっていた。

 でも、言った。言ってやった! やっぱりコイツ、アランのことを、全然心配してない!

「シャルロッテとカールは、アランの失敗作だ」

「!?」

 だけど、その次に言われた言葉に、俺は耳を疑った。

 し……失敗策??

「な! あんなに綺麗で可愛いシャルロッテさんたちが、失敗作なわけ……!」

「人形の"出来(でき)"の話ではない。あの人形たちは、アランの寿命を削って生きてる」

「え……?」
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