悪役令嬢にならないか?
彼からいつもの水筒を受け取る。
「今の君なら、ヒロインに気づかれないように階段から突き落とすこともできそうだな」
ウォルグはくくっと笑って、水筒の水を一気に煽った。
「ですが、ヒロインはエリーサ様なのですよね。エリーサ様にそのようなことはできません……」
リスティアは顔を伏せ、膝の上に置いた手でスカートをぐっと握りしめた。
ウォルグの指導は楽しいものだが、その先に待っているのがエリーサを貶めるものであるならば、心が軋む。
「リスティア嬢。僕は君に立派な『悪役令嬢』になって欲しいと言った。そして、兄とエリーサの当て馬になってほしい、ともね。だから、何もエリーサを階段から突き落とす必要はない。とにかく、二人の仲を取り持ってくれればいいんだ。僕から見ても、エリーサは兄に相応しい相手だからね」
「そうなのですか?」
ぱっと顔を輝かせてウォルグを見つめる。『悪役令嬢』たるもの、感情は押し殺すようにとウォルグに言われているのに、彼から励まされたような気がして、つい表情を緩めてしまった。
彼は困ったように眉をひそめると、何か言いたそうに唇を動かしたが、そこから言葉が紡ぎ出されることはなかった。彼は額にうっすらと光る汗をかいており、リスティアとしてはそれが気になった。妙な色気を孕んではいるのだが、それによって身体が冷えて風邪をひかれても困る。
「あ……。ウォルグ様、失礼します」
「今の君なら、ヒロインに気づかれないように階段から突き落とすこともできそうだな」
ウォルグはくくっと笑って、水筒の水を一気に煽った。
「ですが、ヒロインはエリーサ様なのですよね。エリーサ様にそのようなことはできません……」
リスティアは顔を伏せ、膝の上に置いた手でスカートをぐっと握りしめた。
ウォルグの指導は楽しいものだが、その先に待っているのがエリーサを貶めるものであるならば、心が軋む。
「リスティア嬢。僕は君に立派な『悪役令嬢』になって欲しいと言った。そして、兄とエリーサの当て馬になってほしい、ともね。だから、何もエリーサを階段から突き落とす必要はない。とにかく、二人の仲を取り持ってくれればいいんだ。僕から見ても、エリーサは兄に相応しい相手だからね」
「そうなのですか?」
ぱっと顔を輝かせてウォルグを見つめる。『悪役令嬢』たるもの、感情は押し殺すようにとウォルグに言われているのに、彼から励まされたような気がして、つい表情を緩めてしまった。
彼は困ったように眉をひそめると、何か言いたそうに唇を動かしたが、そこから言葉が紡ぎ出されることはなかった。彼は額にうっすらと光る汗をかいており、リスティアとしてはそれが気になった。妙な色気を孕んではいるのだが、それによって身体が冷えて風邪をひかれても困る。
「あ……。ウォルグ様、失礼します」