あの日ふたりは夢を描いた
「こちらこそ。来てくれてありがとう。最高の夏の思い出になったよ」

「うん。私も」

そこで会話が終わってしまい、真夏の肌に張りつくような、じめっと暑苦しい夜風だけが僕たちを包み込んだ。

話し始めたのは意外にも彼女の方からだった。

「さっきのことなんだけど……」

「うん」

さっきのこととは、線香花火で起こった一件のことだろう。

「あんまり気にしなくていいからね。困らせたくて言ったわけじゃないの」

彼女は眉を下げて、自分が放った言葉を後悔しているようだった。

「僕は嬉しかった。この夏のことも、きみの言葉も絶対に忘れないよ」

それを聞いて、彼女は安心したような笑みを浮かべていた。
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