「孤高の悪女」で名高い悪役令嬢のわたしは余命三か月のようなので、最期に(私の想い人の)皇太子の望みをかなえてあげる予定です。なにか文句ある?

向かう先は……

「フリッツ、どういてちょうだい。急いでいるの」
「アイ、久しぶりに会ったというのにつれないな」
「つれない? どうしてわたしがあなたに愛想よくしないといけないわけ?」

 トランクを振り上げた。彼の向う脛にぶつけてやろうと考えたのである。

「おっと。その手にはのらないぞ」

 彼は、わたしの害意に気がついた。トランクを振り上げた右手から、さっとトランク(それ)を奪い取ってしまった。

「ちょっと、返してよ」
「返してほしくばついて来い」

 つぎは左手を振り上げた。左手のトランクを彼の腹部にぶつけてやろうとした。

 が、左手からもトランク(それ)を奪われた。

 こちらが口を開くまでに、彼はとっとと歩き始めた。

 宮殿の奥へと。

 ついて行くしかない。


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