「孤高の悪女」で名高い悪役令嬢のわたしは余命三か月のようなので、最期に(私の想い人の)皇太子の望みをかなえてあげる予定です。なにか文句ある?
「やめておく? 残念だが、それは出来ない。彼から、なにがなんでもきみを連れてくるよう命じられている」
「傲慢ね。いつもそう」
「ハハッ! 似た者どうしというやつだ」

 大きいけれどやさしい顔にやさしい笑みが浮かんだ。

 彼は、いい人すぎてやりにくい。

 昔からそう。

「ここから動かない、と言ったら? それでも無理矢理連れて行くの?」
「ああ。仕方がないからね。お姫様抱っこでもいいし、小脇に抱えてもいい。きみが恥ずかしがる方法で連れて行くさ」
「嫌な男ね、フリッツ?」
「おれに対してそんなことを思ったり言ったりするのは、きみだけだ」
「あー、もう。わかったわよ。あなたの顔を立てることにする」

 癪だから足早に歩き始めた。

 もう彼の案内など必要ない。

 わたしを連れて来いと彼に命じた人物がどこにいるのか、わかっているから。

 えらそうにわたしを呼びつけた皇太子コルネリウス・ユーヴェルベークは、書斎にいる。

 だから、さっさとそちらに向かった。

「物は言いようだな」

 フリードリヒの笑いをかみ殺した言葉が、わたしの背中にあたり、大理石の床に落下した。

 まったくもう。だから、あなたは苦手なのよ。

 彼に勘付かれないよう苦笑してしまった。

 
 コルネリウスが室内にいることはわかっている。そして、彼もわたしがやってくることをわかっている。

 だから、ノックもなしに書斎の扉を開けた。

 しかも、静まり返った奥の宮全体に響き渡るほど勢いよく開けた。

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