「孤高の悪女」で名高い悪役令嬢のわたしは余命三か月のようなので、最期に(私の想い人の)皇太子の望みをかなえてあげる予定です。なにか文句ある?
「人々は、その大輪の花にだまされるわけです。まさか死病にかかっているとは予想も推測も出来ませんからな。そうして、しばらく花を咲かせ続けていると、ほんとうに唐突に死ぬのです。花が散ってしまうわけです。あまりにも潔すぎる死に方でしょう?」
「それはそれは……。そんな病があるなどとは……」
「では、やはり治す手立てはないのですか? 薬草や呪いや、現実的だろうと非現実的だろうとどんな手段でも構いません。父上、そうですよね?」

 まぁ……。

 義兄のエリーアスったら、主治医の前だからってこれみよがしに「母親の違う異母妹を心から案じる異母兄」をそこまで熱く演じる必要などないのに。

 異母兄のいまの問いは、あきらかに「他人様の前だから一応案じている」を装っていた。それほどわざとらしかった。

「無理です。死を待つしかありません」

 そして、主治医の返答がすっきりきっぱりくっきりすぎて面白かった。

 ここまできいたらもう充分よね。

 まとめると、わたしことアイ・バッハシュタインは、「不治の病にかかっていて余命三か月」というわけ。
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