「孤高の悪女」で名高い悪役令嬢のわたしは余命三か月のようなので、最期に(私の想い人の)皇太子の望みをかなえてあげる予定です。なにか文句ある?
 それにしても、胸のあたりがちょっとムカムカしただけで死んでしまうだなんて、人間の寿命ってわからないわよね。

 それとも、「孤高の悪女」だから? 家族も含めた多くの人々を困らせ、傷つけ、不快にさせまくって悪のかぎりを尽くしているから?

 たぶんその全部ね。

 死ぬことが怖くないと言えば、それは嘘になる。だけど、死ぬ運命にあるものを無理矢理かえるような力は、いくら「孤高の悪女」のわたしでもあるわけがない。

 ということは、余命三か月。思い残すことなくすごそう。

 これまで以上に自由気まま、スリリングでミステリアスでワイルドなときをすごすのよ。

 そうだわ。三か月。ちょうどいい目標が出来たじゃない。

 われながらいい考えだわ。

「アイ? そんなところでなにをしているの?」

 せっかくいい気分でいるのに、水をさされてしまった。

 振り向くと、継母のイルザが胸に盆を抱えて立っている。

 彼女は、お父様がお母様がまだ生きていたときから公然と付き合っていた愛人である。お父様とお母様は政略結婚で、愛も信頼もなにもなかったらしい。だから、お父様は最初にお母様に宣言したらという。

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