「孤高の悪女」で名高い悪役令嬢のわたしは余命三か月のようなので、最期に(私の想い人の)皇太子の望みをかなえてあげる予定です。なにか文句ある?
「おれには愛するレディがいる。そのレディは、いま身籠っている。そのレディと別れるつもりはない。もしも産まれてくる子が男児であったら、体の弱いきみに子どもが出来なければその男児を跡取りにする」

 そんなふうに。

 お父様を非難するつもりはないけれど、わたしがお母様だったら「なめないで」と平手打ちでも食らわせてさっさと離縁したはず。そして、出来るだけ慰謝料をふんだくってどこか静かなところで暮らしたはずよ。

 わたしの夢はともかく、とにかく愛人のイルザが産んだのは男児だった。お母様も子をなすことは出来たけれど、あいにくこのわたし、つまり女児だった。

 しかもお母様は、病が治らないまま亡くなってしまった。

 そうして、イルザとその息子のエリーアスが堂々とこのバッハシュタイン公爵家に乗り込んでき、後妻と跡継ぎの座におさまった。

 だからこそ、イルザはこのわたしを忌み嫌っている。

 当然、その息子のエリーアスもまたわたしを憎悪している。
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