「孤高の悪女」で名高い悪役令嬢のわたしは余命三か月のようなので、最期に(私の想い人の)皇太子の望みをかなえてあげる予定です。なにか文句ある?
「そんなわけはないわ。知っているからこそ、客殿付きの侍女と結託して盗んだのよ。侍女にいくら渡したの? いくらで買収したの?」

 そして、カサンドラもまたズレすぎている。

 いまやこの場にいる人たちは、このくだらなさすぎる断罪劇をシラーッと見ている。シュナイト侯爵夫人ですら、冷めた目で見つめている。

 なんというか、それらしい小細工を弄せなかったのかしら?

 まあ、残念なカサンドラも一生懸命に知恵を働かせたのでしょう。

「何事だ」

 そのとき、コルネリウスがフリードリヒを従えて玄関ホールに入って来た。

 ははん。カサンドラが直接訴える為に呼びに行かせたのね。

 案の定、カサンドラはコルネリウスに涙ながらに訴えた。

 そして、こんな盗人が皇太子妃候補であっていいわけがない。即刻ここから追いだして欲しい。

 そのように。

 彼女もまた、コルネリウスの想い人がだれなのか、勘付いていたのね。だからこそ、アポロニアを虐めていたというわけね。

「すでに皇太子妃候補ではない。それに、この場に大切な家宝を持ってくることじたい非常識だ」
「そ、それは、殿下……。殿下の隣で映えるように……」
「バカバカしい」

 コルネリウス。いくらなんでもひどくない?

 あまりの彼のすっきりはっきりくっきりの態度に、集まっている人たちのニヤニヤ笑いがとまらない。
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