「孤高の悪女」で名高い悪役令嬢のわたしは余命三か月のようなので、最期に(私の想い人の)皇太子の望みをかなえてあげる予定です。なにか文句ある?
「はい、お義母(かあ)様。ところで、明日から皇宮に参ります」
「皇宮? いったいどうして……」
「当然、皇太子妃候補の為の修行ですわ。お義母(かあ)様が散々お父様に勧めていらっしゃいましたわよね?」

 数日前から皇太子コルネリウス・ユーヴェルベークの妻になるべく、レディたちの修行が始まっている。最終的には、その修行の成果によって皇太子妃が決まる。

「なんですって? アイ。あなた、あんなに嫌がっていたじゃない。だから、候補からはずしてもらうようお父様にお願いしていたのよ」

 嘘にきまっているわ。

 わたしが皇太子妃になれば、エリーアスを皇宮に送り込むつもりのくせに。

 エリーアスは、ムダに美貌である。その容姿だけで周囲をだますことが出来る。

「考え直したのです。バッハシュタイン公爵家の令嬢としては、その責務を負うべきものだと。わが家のよりいっそうの発展と栄華の為にも、全身全霊をもって修行に挑み、皇太子妃の座を射止めなければなりません」
「だけど、アイ。あなた……」
「というわけで、わたしは皇宮入りの準備をいたします」

 力いっぱいの笑みをひらめかせ、彼女の横をさっさとすり抜け、廊下を駆けた。
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