闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
バスの窓からちらついた影に、天はハッとする。見間違いか、幻覚か、一瞬困惑する天だったが、次の停留所で降りるブザーを押し、パンプスを鳴らしながら先ほどの場所まで駆けていく。住宅街の片隅の空き地に、いちめんのコスモス。西陽に灼かれているかのように、あかく燃えている花畑の、その真ん中に。
彼女はいた。
真っ白な、リネンのワンピースを着て。
「――来ると、思ったわ」
「なぜ、ここに」
遠くから見てもわかる美貌は、涼しげな美人と言われる天よりも鋭く、冷ややかですらあった。天が子どもの頃から変わらない化け物じみた美しい女性は、驚く天の前で、くすくす笑う。
「ここはね、ユキノジョーが残してくれた、あたくしだけの場所。ランコですら知らない、隠された遺産のひとつ」
「……ひとつ、ということはまだ、隠されているものがあるわけ」
「そう。貴女が唆しておかしくなっちゃったあたくしの息子とか」
「やっぱり」
自由の行方については特に心配していなかった。諸見里の家に戻るか、彼女に匿ってもらうか、そのくらいしか選択肢がないと思ったからだ。
彼女はいた。
真っ白な、リネンのワンピースを着て。
「――来ると、思ったわ」
「なぜ、ここに」
遠くから見てもわかる美貌は、涼しげな美人と言われる天よりも鋭く、冷ややかですらあった。天が子どもの頃から変わらない化け物じみた美しい女性は、驚く天の前で、くすくす笑う。
「ここはね、ユキノジョーが残してくれた、あたくしだけの場所。ランコですら知らない、隠された遺産のひとつ」
「……ひとつ、ということはまだ、隠されているものがあるわけ」
「そう。貴女が唆しておかしくなっちゃったあたくしの息子とか」
「やっぱり」
自由の行方については特に心配していなかった。諸見里の家に戻るか、彼女に匿ってもらうか、そのくらいしか選択肢がないと思ったからだ。