闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う

   * * *


 空耳だと思った。


「……だぁれ?」


 病室の扉を開け、聞こえてきた鈴の鳴るような声。
 陸奥は、気のせいだと首を振り、ベッドで酸素吸入器をつけて眠りつづけている少女の姿を見ようと、視線を傾け、気づく。

 彼女は自分で酸素吸入器を外していた。
 邪魔だったのだろう、投げつけたらしく、床の上に無造作に転がっている。


「嘘だろ……」


 唖然とする。
 ありえないと思った。
 透き通った漆黒の瞳が、陸奥を見つめている。
 興味深そうに、彼の顔を、眼を、覗き込んでいる。
 その、無邪気な少女の表情に、吸い寄せられる。


 ……なんて綺麗な瞳なんだ。


 見つめあい、少女は枕に頭を乗せたまま、首を左右に振る。
 痛みが走ったのか、顔をしかめ、唇を歪ませる。


「動くな、頭はまだ……」


 慌てて少女の髪に触れる。そっと、撫でる。自由がしてあげていたように。柔らかい、肩まで伸ばしっぱなしの黒髪が、少女の頬に触れる。心地よいのか、くすぐったそうに少女は瞼を閉じ、ひくひくさせる。


「どうした?」
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