闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
「お医者、なれた?」


 彼女はどこまで気づいているのだろう。自分がどのくらい意識を失っていたのか、まさか自覚しているのか?


「今、研修中だ。国家試験はいい成績でパスしたらしいぞ」

 誇らしそうに言うと、安心したように小手毬は両瞼を閉じる。

「よかったぁ」


 自分の身体のことよりも、第一に自由のことを思っている。そのことが陸奥には信じられなかった。
 今がいつで、自分がどんな状態なのか、取り乱すこともなく、彼女は淡々と受け止めていく。事実は事実だと陸奥に真実を求める。


「あたしは、もう、だいじょうぶだから」

 教えてと、陸奥に乞う。

「駄目だ」
「なんで」
「頭がパンクする」
「してもいい」
「ジユウに怒られる」
「あたしが?」
「いや、俺が」
「……じゃあ、いいや」


 ジュウにぃちゃんに教えてもらうからミチノクなんか知らないと言い放たれる。それはないだろと苦笑を浮かべる陸奥も、怒ってはいない。
 ぽんぽんと会話ができることに驚く。もともと活発な少女だったのだろうか。まるで、ほんとうに二年間眠っていただけに見える。


「ミチノク」
「なんだよ」
「頭、痛い」
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