闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
 だけど早咲も陸奥も、常に小手毬の傍にいてくれるわけではない。


 ――ジユウおにいちゃんが来られなくたって淋しくなんかない。ミチノクは担当医だから一日一回顔を出すし、ハヤザキも花を届けてくれるオソザキと一緒に来てくれる。これ以上何を望めというの?

 
 車椅子から降りて歩く練習も本格的になった。
 女性理学療法士の指導に従いながら、動きが鈍くなっていた筋肉に働きかける。はじめのうちはぎこちなくても、身体は覚えているものだ。従来の動かし方を。
 リハビリの時間は何も考えなくていいから気が楽だ。
 早く事故にあう前のように、身体を動かせるようになりたい。その一心で、小手毬は汗をかく。
 
 
「無理するなよ」
「……わかってます」


 彼女が熱心にリハビリに励む姿を、すこし離れた場所から陸奥が見守っている。
 意地悪そうな彼の瞳に見つめられると、なぜだか負けたくないと思ってしまう。
 たぶんきっと、これ以上彼に世話を焼かれたくないからだ。

 
「陸奥先生、すこし離れるので亜桜さんをお願いします」
「すこしだけだぞ」
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