闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
   * * *

 
 考えると怖くなるのだ。
 事故の前の出来事はなんとなく覚えているものの、さらに過去、自分が物心ついた頃、と思い出そうとすると思い出してはいけない何かまで思い出してしまいそうで。
 自由はそのことを知っているからきっと、無理しなくていいと、小手毬を甘えさせてくれるのだ。
 心と身体がアンバランスのまま、十八歳になってしまった小手毬は、ひたすらリハビリに励む。
 怖い夢から逃げ出そうと、もがくように、ひたすら……
 
 
 季節は秋から冬へと移り変わろうとしていた。小手毬が覚醒して、半年が経とうとしている。
 自由は相変わらず研修を忙しなく受けているそうだ。
 小手毬が目覚めた頃は産婦人科にいた彼だったが、夏の終わりから小児科、総合診療科、緊急外来……と目まぐるしく病院内で動き回っており、さいきんではなかなか見舞いにも来てくれない。
 早咲いわく、まだ初期研修医である彼はさまざまな経験を積む必要があるから、小手毬だけを診ることができないのだとか。
 それくらい小手毬だって理解している。
 だから淋しいと、我儘を言うことはしていない。
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